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韻踏み夫による日本語ラップブログ

日本語ラップについて Twitter @rhyminaiueo

2011年UMB 決勝

  現在フリースタイルMCバトルが流行しているようだ。このMCバトルブームの引き金となったのはおそらくBSスカパーの番組「BAZOOKA!!!」の企画「高校生ラップ選手権」であろう。ZEEBRAを中心に、MC漢、DABO、鎮座DOPENESS、R指定などの第一線で活躍するラッパーたちが審査員を務め、ゲストライブでは、KREVA、般若、SEEDAらも呼ばれている。この大会は日本語ラップシーン全体を巻き込んだ企画となっているわけだが、この企画が2012年という年に開始されたことはMCバトル全体の歴史と見比べてみると重要な意味を持つ。2012年の年末に開催されたULTIMATE MC BATTLE(以下UMB)の優勝者はR指定であり、その前年の2011年大会の優勝者は晋平太であった。この二人が現在のMCバトルの世界で圧倒的な影響力と実力を持っていることに異論のある人はいないだろう。2012年はMCバトルの歴史において重大な転換点であったといえる。晋平太の曲に「M.B.H~MC BATTLE HISTORY~」というのがある。「三連覇のKREVAからすべてが始まったとすれば」という歌いだしから、曲の題名どおりMCバトルの歴史を、「漢に般若」がKREVAの作ったフリースタイルのやり方を壊し、「土台を作った」と語り継ぎながらBBPとUMBという二大MCバトル大会の名場面、優勝者を列挙してゆく。その中で、晋平太自身が「はじめの一歩歩んだ皇帝VS日本最強の童貞 あの瞬間が一つの分岐点 みんな感じた空気で」と歌うバトルは言うまでもなく、UMB2010GRAND CHANPION SHIPの第一回戦、晋平太VSR指定に他ならない。この試合をMCバトル史上もっともレベルの高いバトルだったとしても異論はそうないだろう。この年と、次の2011年に晋平太はUMBを連続で制覇することになり、続く2012,13、14年の三連覇を果たすのがR指定であることは周知のとおりであり、「晋平太から渡ったバトン Rが握るバトルのハンドル」と晋平太自身R指定が現在のMCバトルの第一人者であることを認めている。

 では、この二人がMCバトルの「分岐点」となりえたのはなぜなのか。晋平太の歴史観に寄り添って見れば、分岐点はそれ以前に二つあった。まず、第一のそれは「三連覇のKREVA」である。そこから「全て始まった」のであるが、次に漢がKREVAの「スタイルを壊した」あとに、R指定がもう一度「基準」となるような仕事をした(FREESTYLE MC BATTLE.COMのインタビューより)。であるならば、おそらく2011年と2012年はMCバトルの歴史において、重大な転換点となったはずだが、具体的にそれはどういったことなのだろうか。

 MCバトルは、韻を踏むことと踏まないことの二つのスタイルの戦いの歴史であったといえる。KREVA押韻を重視し、漢と般若が戦った2002年のBBPの決勝戦で両者は押韻を否定する(「韻より大事なものがあるんだ」般若、「CHECK CHECK ワンツー 着々ライム書くなんて簡単な韻は誰でも踏めんだ」漢)。だが、押韻はその後も長く中枢的な技術としてMCバトルで生き残った。と、いうよりもほとんど誰も押韻の制度から逃れた者はいなかった。韻を単に否定するのでは、結局のところ押韻を前提としているのであり、押韻の制度の中にあるままである。今引用した漢のパンチラインは、ライムを踏むことでライムを否定するという二重の仕掛けが施されているのであり、その点において漢と般若のこの戦いは分岐点であるといえる。

 2002年から約十年間、「基準」となるMCは不在であったと晋平太の歴史観は伝えるが、その間押韻することとしないことの間で揺れた時期であり、2008年のUMBは般若、2009年は鎮座DOPENESSが優勝しているところを見ると、押韻をしないMCが優勢であったといえる。R指定と晋平太の試合はその翌年の2010年に行われたのであり、この二人の押韻主義者の戦いはMCバトルに押韻を取り戻した分岐点であったかに見えた。だが、翌年の2011年大会においてR指定は一回戦で押韻を排した論理的なバトルを行うDOTAMAの前に敗れたのであり、ほかにも輪入道、NAIKA MCなど押韻をしないラッパーたちが勝ち進んでいた。その中で「Rの影響」を受けたと批判されながら押韻主義で晋平太は決勝まで残り、NAIKAとの戦いが行われた。

 「韻がどうこうの時代じゃないこと証明」と押韻主義を否定するNAIKAに対して、晋平太は韻を踏み続けるのだが、この試合を決定したのは両者がかぶっていた帽子であった。晋平太は白、NAIKAは黒の帽子をかぶっていたのだが、NAIKAが晋平太のそれを「白旗」だとし、ゆえに「終わり」なのだと告げる。晋平太はそれに「白の帽子で取る白星 黒の帽子だぜ 黒星」と、「バッチリなアンサー」を出すことになり、以降NAIKAは決定的な言葉を出せず敗退する。

 白の帽子は「白旗」に似ているのか、「白星」に似ているのか。そのどちらがMCバトルの審査において説得力を持つのかという点においてこの二択は重要な意味を持つ。まず、NAIKAのように「白旗」に類似するというとき、彼は視覚的な類似を用いている。旗と帽子はどちらも布でできているのだし、NAIKAの言うように頭上で動く白い布製品は振られた白旗に類似しているはずだ。少なくとも星取表に書き付けられた白い星の印よりは類似している。だが、言うまでもなく、言葉を意味ではなく音の次元で捉えるならば「白い帽子」は「白星」に類似している。そしてMCバトルの磁場を支配するのは音の類似である、つまり押韻であることを示した点においてやはり「バッチリなアンサー」であったのだ。

 もちろん、晋平太の強さは押韻だけではないし、さまざまにそれをほめたてることも可能ではあるが、歴史的にみたとき、この試合は決定的であったといえる。