韻踏み夫による日本語ラップブログ

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「2017年ベストアルバム/ソング In 日本語ラップ」への自註

 日本語ラップの商品発売情報を掲載している非常に有益なメディア、「2D Colvics」(http://blog.livedoor.jp/colvics/)の毎年末恒例の年間ベストアルバム/ソング企画に、昨年に引き続き参加させてもらった。ただ作品を挙げているだけなのもせっかく選んだのだからもったいなく、また一年を振り返る意味でも、ランキングに入れた作品についてコメントしておこうと思う。ちなみに、私は選出の際に、ベストアルバムに収録されている曲はベストソングには入れないようにした。普通に選べば被ってしまうのが当然だが、被っていては面白味に欠けるとおもったからだ。ランキングを転記しておく。

 

2017 BEST ALBUMs In 日本語ラップ

http://blog.livedoor.jp/colvics/archives/52267307.html

 

#01:PUNPEE「MODERN TIMES」

#02:ゆるふわギャング「MARS ICE HOUSE」

#03:BAD HOP「MOBB LIFE」

#04:NORIKIYO「Bouquet」

#05:GOODMOODGOKU & 荒井勇作「色」

#06:SUSHIBOYS「NIGIRI」

#07:Weny Dacillo「AMPM - EP」

#08:SALU「BIS3」

#09:JJJ「HIKARI」

#10:BES「THE KISS OF LIFE」

 

 

2017 BEST SONGs In 日本語ラップ

http://blog.livedoor.jp/colvics/archives/52267306.html

 

#01:ECD × DJ Mitsu The Beats - 君といつまでも(together forever mix)

#02:JP THE WAVY feat. SALU - Cho Wavy De Gomenne Remix

#03:tofubeats - LONELY NIGHTS

#04:Elle Teresa feat. Yuskey Carter & ゆるふわギャング - CHANEL

#05:LEON a.k.a. 獅子 - GUN SHOT

#06:Jin Dogg feat. Young Yujiro & WillyWonka - アホばっか

#07:LIBRO - 言葉の強度がラッパーの貨幣

#08:RHYMESTER feat. mabanua - Future Is Born

#09:KICK THE CAN CREW - 千%

#10:JAZZ DOMMUNISTERS feat. 漢 a.k.a. GAMI - Blue Blue Black Bass

#11:dodo - swagin like that

#12:I-DeA feat. D.O - DeA Boyz

#13:Bullsxxt - 傷と出来事

#14:STPAULERS feat. KNZZ - Kick In The Door

#15:Chino Braidz feat. MEGA-G - Dejavu

 

 

 まずはベストアルバムから話を始めるが、多くの人が言っているように今年の日本語ラップはかなり豊作だったと思う。若手、中堅、ベテラン問わず多くの優れた作品が出た。その中でも一位に選ばざるをえないと感じたのがPUNPEE待望の、というよりも渇望の1stアルバム『MODERN TIMES』だった。自分の中でそれとほぼ同率一位枠という気持ちで選んだのが二位のゆるふわギャング『Mars Ice House』と、三位BAD HOP『Mobb Life』である。あえてこの順位になった理由を探せば、一枚のアルバムとして聞いたときのまとまりや完成度ということになるが、曲単位で一番好きなものが多いのはBAD HOPであるし、シーンに新しい風が吹いたというような興奮をもたらしてくれた点では、ゆるふわギャングが圧倒的であるし、やはりこの三作は同率一位という気持ちでいる。これらは、十年、二十年後にも残るような作品だと思う。

 『MODERN TIMES』は、30年後の自分が登場するメタ視点を取ったコンセプトアルバムである。音楽作品に限らずメタものの物語などが持つぬぐい切れない退屈さはどうしても好きになれず、またThe Beatles『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』以来コンセプトアルバムというのもとにかく「エラソー」で苦手なのだが、それでも『MODERN TIMES』は大傑作で、大好きな作品だった。この圧倒的な音世界の魅力を語り切る能力も自信もないが、ワクワクさせるようなSF的であったりファンタジックであったりするビートから、90年代ヒップホップ的な格好良さまで、さすがPUNPEEだという出来なのは説明不要だろう。また、ラッパーあるいはボーカリストとしての才覚も存分に振るわれていて、リズムもメロディーも声もすべてが一級である。しかし、大変恐縮だがアルバム中のベストソングを選ぶとすればどうしても「Renaissance」になってしまう。レア盤になっている『Moving On The Sunday』からの再録でもあり、長くPUNPEEの代表作として知られている一曲だが、あらためて聞いてみると、「凡人」で「暇人」のPUNPEEのスゴさの秘訣が歌われているような気がした。ヒップホップには不良文化の側面が非常に強くあることは間違いないが、かといって不良でない者を排除する文化ではないことも確かだ。しかし多くのナードで文系でオタクなラッパーやリスナーはヒップホップに疎外されたと感じルサンチマンを持つことが多々ある。ヒップホップとルサンチマンは徹底して無縁のものなのに!たとえば、「メジャーデビュー」したらしいある「ふたり」組がそうしているようにルサンチマンを垂れ流すことを許すというようなこととは全く別の次元で、ヒップホップはあらゆる生を肯定するのだが、PUNPEEが「Renaissance」で正確に歌うのはそのような微妙だが絶対に取り違えてはならない点であり、それはまさに「少しだけ微量の閃光」を投げかけるようなものと言えるだろう。つまり、最も批判すべきはハスラーやゲットーといったような、ヒップホップ的イメージを措定してしまうことであり、またそのようなイメージと自分の「リアル」がかけ離れているからといって反ヒップホップ的に思えるようなものをあえて掲げるような安易な価値転倒もまた、結局は固定されたイメージに寄りかかった思考であるという点で同断である。「大きな海原」と「砂浜」の対置は、それを指し示している。ヒップホップという「大きな海原にデッカイお宝」など存在しないのであって、「イジケ」ながらもそれぞれがそれぞれの多様な「砂浜」にとどまること、そしてそこでのクリエイティブな喜びを肯定することがヒップホップの本質であろう。したがって、PUNPEEは最もヒップホップ的なのだと言える。

 ところで、BullsxxtのMC、UCDは「例えばPUNPEEの今回のアルバムもけっこうポリティカルだと思う」(http://www.ele-king.net/interviews/006033/)と言っており、貴重な指摘だと思う。確かに『MODERN TIMES』はコンセプトアルバムであり、アメコミオタクらしいオマージュや引用が数多く、そして何よりサウンドが美しいため、作品世界が閉じられて、政治性が脱色される危うさも十分にあったはずだが、決してそうはなっていないということだ(そう感じられない、あるいは感じたくないと思うなら、それは相当呑気で鈍感だと言わざるを得ない)。その意味では、ポップでもありファンタジックな世界を歌っている、ゆるふわギャング『Mars Ice House』も同様に「ポリティカル」だと言える。例えば、どちらのアルバムも共通して宇宙に行きたいと言っていることが興味深く、SF的だったりファンタジックであったりする点で似ているところがあると言っていいだろう。PUNPEEについては置くが、ゆるふわギャングは「Hunnyhunt」(ディズニーランドのアトラクション)、「Fuckin’ car」(マリオカート)、「グラセフ feat. Lunv Loyal」(グランド・セフト・オート)などフィクションの世界についての曲やモチーフが多い。彼らのその虚構世界はそれ自体で十分に魅力的だが(誰もが、「グラセフ」のMVに映されたあのネオン街で彼らのように暴れまわりたいと思ったはずだ)、同時にそこには「リアル」から/との逃走/闘争が確かに感じられる。あまり小難しい話をするつもりはないが、ジル・ドゥルーズの「逃走の線とは人生から逃れること、想像の世界あるいは芸術の中への逃避であると思うことは大きな誤りであり、唯一の誤謬だ。反対に、逃れるとは、現実を生み、人生を創り、武器を発見することだ」(ジル・ドゥルーズクレオール・パルネ『ドゥルーズの思想』)という文章はゆるふわギャングを聴く時にはぴったりだと思う。彼らがとてもハードな環境で生きてきたことはインタビューなどで知られている。その点ではKOHHも同じだが、佐藤雄一「なぜ貧しいリリックのKOHHをなんども聴いてしまうのか?」(『ユリイカ 2016年6月号』)で言われる通り、KOHHの描く風景は殺風景な団地である(それが振動し立体感を持ち躍動するというのが佐藤の論である)。それに比べると、KOHHの次に出てきたラップスターであるゆるふわギャングの世界はカラフルで豊かである。『Mars Ice House』は、日本語ラップがさらに一歩進んだと感じさせる作品だった。

 三位のBAD HOP『Mobb Life』はとにかく曲単位、パンチライン単位で見るとずば抜けているように思う。一曲目の表題曲からYZERRは高いセンスのフロウと凶暴なリリックを見せ、T-Pablowは「いくら積まれてもだせーオファーを蹴る代わりにかっけーヴァースを蹴る覚悟/持ってなきゃお前らの出る幕もない ただのくそだせーセルアウト」と強烈なサッカーMCディスをかましている(続けて「観客に囲まれルールがなきゃ戦えないスポーツしか出来ねえんだからマウスピース噛んどけ子狐ども」とあるからおそらくバトルMCたちを、特に『フリースタイルダンジョン』でバトルが白熱した晋平太を意識しているのであろうが、痛快である)。T-Pablowで言えば、「Ocean View」の「ディナー運んでくるウェイターもしてるびっくり タトゥー入れまくり若いのにいい羽振り/もしかして悪い仕事してる人たち いや違うよラッパー横に幼馴染」というインパクトある一節も残しており、発表後すぐに話題になっていたように記憶している。ウェイターから不審がられていることをボーストしてしまうイケイケ感から、いきなり自由間接話法風に「もしかして悪い仕事してる人たち」とそのウェイターの心内語を歌い、すぐさま「いや違うよ」と否定する語りの呼吸のリリカルな感触などはSEEDAを思わせる。そのPablowよりも凶暴なパンチを持っているのはBenjazzyで、「Hendz Up」のフックでは不穏さを煽るビートの上で、短い韻を矢継ぎ早に重ねながら「音を上げろKentaざけんなこれは喧嘩/俺ら来れば現場他の奴ら全員が前座」とかましている。Benjazzyのマッドな魅力が最も出ているのは、彼らのラジオ番組「Choosy Tuesday」でのロウトーンで放たれる突飛な暴論暴言の数々もそうだが、何よりアルバムの特典に付いた「Cho Wavy De Gomennne」のリミックスだろう。「ラップが上手いって褒められてもちっとも嬉しくないしいまだにルーキー扱いしてんじゃねえよ」、「wavyでマジごめん」、「まじで人生舐めてるし何も動じねえ」など、怒りや不満をブチギレラップに乗せたあのヴァースはとにかく突き抜けており、聞くたびに爆笑してしまう(ふと思ったのだが、ブチギレラップの元祖は誰であろうか。やはりTOKONA-Xが卓越していると思われるが、怒りとラップについて考えてみるのも一興だろう)。もう一人触れておかねばならないメンバーは、Tiji Jojoで、音楽的なセンスで言えばメンバーの中でもトップだろう。特に「Super Car」のフロウは耳をひく。フックから滑らかにヴァースに移行しつつも、「ガルウィングで」「重圧な」の箇所の鋭敏なカットインの仕方などは奇跡的で、比喩的に言ってしまえば、それこそ彼のラップがスーパーカーのような高い走行機能を持っていることを十分に示している(ちなみに、ラップと車の走行の比喩はSEEDA「TECHNIC」を筆頭に、後述SUSHIBOYS「軽自動車」など数多くあるから、気取って言っているわけではない)。また、「これ以外」でも素晴らしいメロディセンスを見せており、特に「だから負けりゃ悔しいし無表情で舌を噛む」の高音フロウは圧倒的である(おそらく「悔しい」ときに噛むべきなのは「(下)唇」で、「舌」を噛むのは自殺するときではなかろうか?というツッコミはあろうが、日本語ラップのアンセムZeebra「Street Dreams」でも本来「匙投げた」と言うべきを「箸投げた奴ら」と間違えているのだからまったく問題ではない)。最後に、彼らが今回のアルバムを通して残したもう一つのパンチラインに触れておかねばならない。それがラジオ番組やインタビューで紹介された「内なるJ」という彼らの中でのスラングである。メロディを付ける際にどうしても出てきてしまうJポップっぽいダサいメロディのことを指すらしく、それは徹底的に抑圧せねばならないものであるが、しかし日本で生まれ育った以上染み付いてしまっていることは否定できないものだとされている。この発言には、彼らのあまりに鋭い「ニッポンの」風土への批評性が込められていて大変驚かされた。例えば、BAD HOPに「J」なメロを見つけたと言って抵抗が不十分だと言ってみたりするような言説は、BAD HOPの認識にまったく追いついていないことを暴露しているだけで何の面白味もない。「内なるJ」が重要なのは、彼らがそれを無意識のようなものとして捉え、その上で内側から外へ出ることを目指すという形で抵抗しようとしている点であり、それこそが「ニッポンの思想」(≒批評)がずっと一貫して取り組んできた課題だというようなことを、私は今年の9月24日に市川湖畔美術館「ラップ・ミュージアム」のクロージング・イベント「日本語ラップ学会」で話した。

 思わずBAD HOPについての記述が長くなってしまった。四位の『Bouquet』はNORIKIYOの7枚目のアルバムである。コンスタントにアルバムを出し続けているNORIKIYOはもう日本語ラップシーンでもベテラン寄りの中堅といったポジションにいるかと思うが、興味深く思ったのは、彼がトラップ的なラップの乗り方を導入している点だった。多くの中堅やベテランを悩ませているのがトラップ的なノリに付いていけるのか否かということで、多くの、それももとは圧倒的なスキルを持っているはずのラッパーたちがなぜかトラップには苦しんでしまうというジレンマがあるように思う。例えば、ファーストアルバムを比べればスキルの上では勝っている(ように私は思う)AKLOよりもSALUの方がうまく適応しているし、SEEDAが苦しんでいるのに比べてA-THUGはどんなビートも乗りこなしてしまう。それで行くと、NORIKIYOは成功していると言えるだろう。批評家の吉田雅史は、トラップのラップの特徴は、言葉の母音を切り詰めて発音することにあると指摘しているが、それを踏まえると、特に「何で?」や「満月」のラップは独自の道を進んでいるように思えた。NORIKIYOのトラップなどの流行りとのうまい距離の取り方は、フックにSugerhill Gang「Rapper’s Delight」のオマージュさえなされるオーセンティックにヒップホップな一曲「It ain't nothing like Hip Hop」で「俺はトラップも好きでも原点がね俺にこう言う おいブリってんじゃねえよ」と歌っていることにも表れているだろう。また、この曲では「俺はレップするCCGの生き残り あれがなけりゃ今もきっと道のゴミ/あれはクラシック『REBUILD』『花と雨』 今もMONJUに伸びかけた鼻折られる」という一節が多くのリスナーを感動させた。考えてみれば、今のシーンを支えているラッパーたちのほとんどは「CCGの生き残り」であることに気が付く。加えて思い返すと、(30年後の)PUNPEEもアルバムのスキットでISSUGIを指して「彼の言葉にはいつも背筋を伸ばされたもんだよ」と評しており、MONJUの間違いなさはおそろしい。そのNORIKIYOとPUNPEEのシングル「終わらない歌(REMIX)」も素晴らしい出来で、それを聞いていて興味深く思ったのが、「すべてのクズ共のために」というThe Blue Heartsのパンク的な歌詞(NORIKIYOはブルハファンを公言しており例えば「SADAME」ではブルハの名曲「青空」をオマージュしている)と、曲中「損得超えたヤセ我慢」の一節が引用されているRHYMESTER「B-BOYイズム」の「素晴らしきロクデナシたち」と、NORIKIYOのクルー名にある「JUNKSTA」と、PUNPEEの「凡人」がそれぞれ類似しつつも微妙なズレがあるだろうということなのだが、それについて書くと長くなるのでやめておく。

 五位に選んだのは、神童として16歳ですでにデビューしていたGOKU GREENの、名義をGOODMOODGOKUに変え、あらべぇなどの名でも知られるビートメイカー荒井優作との共作EP『色』である。正直、この作品の良さを語る言葉を私は持っていないが(アンビエントでサイケで最高にチルだ、くらいのことしか言えない)、ともかく素晴らしいことは聞けば明らかだろう。ベストアルバム選出中にこのアルバムを聞いていると、曲単位でなくアルバムとして評価しようとすると、(当然のことなのだが)やはりビートメイカーの力が大きいことを実感した。GOKU自身サウンドへの強いこだわりを持っているようで、あのスパルタなレコーディングで有名なI-DeAに「一位か二位に入るくらいのめんどくささ」と言わしめたほどだ(http://fnmnl.tv/2017/09/25/38405)。

 順番が前後するが、同様にサウンドが素晴らしく、また私が語るには役不足なのは九位のJJJ『HIKARI』である。今年はFla$hBackSのメンバーそれぞれが活躍していたが、作品として選ぶならばやはりこれになるかと思う(好みだけで言えばFebbのラップを選ぶだろうし、曲単位ではKid Fresino「by her feat.茂千代」が抜けている)。「HPN feat.5LACK」は涙なしには聞けず、川崎コネクションの「Orange feat. STICKY」も熱い展開であり、「2014 feat. Fla$hBackS」に興奮しないヘッズはいないだろう。とりあえず、この作品が傑作だとは知られていると思うし、吉田雅史が(ラップの批評文としても)非常に素晴らしいレビューを残しているので、そちらを参照していただくことにしよう(→http://www.ele-king.net/review/album/005727/)。

 GOKUのミックスを担当したI-DeAは(自身アルバム『SWEET HELL』も発表しているが)十位に選んだBES from SWANKY SWIPE『THE KISS OF LIFE』のミックスも手掛けている。日本語ラップ界の至宝、天才BESのカムバック作だが、このアルバムもビートがそれぞれかなり高い水準にあると思う。特に「Check Me Out Yo!」などは煙たいビートに三人のスキルの確かな三人がラップを乗せているアルバムの顔となる一曲だろう。同じくMVが出された「Mic Life」もKing104とStickyが客演しており、ビートも含め素晴らしく、歌詞も彼らに似合わず(?)前向きである。客演についても触れておけば、「Breathless」ではKNZZ、「Ruff&Tough」では、すでにSWANKY SWIPE「GREEN」で客演済みのレゲエ・アーティストB.B THE K.O(BESはレゲエ好きとしても知られており、SCARS「ばっくれ」などではレゲエ風のフロウを披露したりしている)、これもまた古くから付き合いがあるだろうMEGA-Gとの「King City」、三曲連続で客演している、池袋BEDを中心に活動するフィメール・ラッパーMICHINOなど、飽きさせないメンツが揃っている。NORIKIYOが「あれはクラシック」と評した『REBUILD』や、SWANKY『BUNKS MARMALEDE』などの全盛期と比べて、BESのフロウのキレが完全に戻ったとはさすがに言うつもりはないが、それでもBES的としか表現できない独特のリズムの快楽は健在である。とはいっても、「Check Me~」の仙人掌にあるように、「てかあんたがここにいりゃ何もいらんし」という気持ちでいっぱいであることを隠すつもりもないのだが。

 六位と七位は、今年のニューカマーの作品を選んだ。SUSHIBOYSをはじめて知ったのはSEEDAがサンクラにアップしていた(今は非公開、メンツを増やして再発表するとのこと→https://www.youtube.com/watch?v=7lmEQzj55o0)「254」に参加していたFarmhouseのラップを聞いたときで、かなりのスキルだと思ったし、SEEDA自身日本でトップクラスだと認めている。その後調べて農業ラップだの、元ユーチューバーだのと言った情報に当たり、怪訝に思っていたのだが、1stアルバム『NIGIRI』はそうした不審を吹き飛ばすに十分な出来だった。ビートもラップも完全に一流で、日本語ラップシーンにとどまらないリスナーを、国内外問わず獲得できるのではないかと大きな期待を持たせてくれる一枚である。七位のWeny Dacilloもまた、大変な才能だと確信できる。多くの人同様にはじめて彼を知ったのは高校生ラップ選手権でT-Pablowに惨敗してしまったときで、それ以来忘れていたが、今年発売されたシングル「1000%」(EP未収録)を聞いてぶっ飛んだ。メロディもリズムも圧倒的であり(DJ CHARI&DJ TATSUKI「ビッチと会う」も素晴らしい)、かつリリックも独特の「マイナー文学」的な感触のある訛りの強度に支えられている。

 九位はSALUのミクステ『BIS3』である。今年のMVPは明らかにSALUだった。4thアルバム『INDIGO』を発表し、新たなレベルのラップを披露しながら、日本語ラップのレジェンドである漢とD.Oと「Life Style」で共演を果たし、「夜に失くす」では、おそらくESTRA繋がりであろうがニューカマーゆるふわギャングをいち早くフックアップしている。ベストソングに挙げたJP THE WAVY「Cho Wavy De Gomennne Remix」もまた同様に素早い反応で新人をフックアップしており、彼自身「俺がDrakeで彼Makonnen」と歌っているように(新人のILOVEMAKONNENがアップした「Tuesday」がネットからヒットしたのを見て、大物Drakeがリミックスを要請し彼をフックアップしたアクションを、今回のSALUとJPに重ねている)、まさに日本のDrake並みの動きと存在感を持ってきている。2010年代初頭に「スワッグ系」として注目されて一時代を築き、その後KOHHが「Fuck Swag」(誤解ないよう一応書いておくがディスではない)と歌ってさらに日本語ラップを進化させ、再びSALUがKOHH以後の日本語ラップの最前線に戻ったという展開もスリリングである。また、シンガーの向井太一「空」に客演参加した彼はそこでもメロディのセンスを証明する同時に、「Cho Wavy~」ではゴリゴリのトラップで圧倒的なラップスキルを誇示するという幅もあり、かつ旧友であるだるまやRYKEYとの作品も発表しており、ヒップホップ的にも理想的な振る舞いだと言える。また、ミクステからMVが出された「Sweet and GoodMemories」についてはこのブログに書いた(→http://bobdeema.hatenablog.com/entry/2017/10/16/115111)。

 

 ベストソングに移ろう。一位に選んだのはECD×DJ Mitsu The Beats「君といつまでも(together forever mix)」である。加山雄三の生誕80周年を記念したアルバム『加山雄三の新世界』に収録されている一曲で、加山の同名曲のリミックスである。加山のヒップホップ/ラップ文脈での再評価の流れは、おそらく同作にも収録されているPUNPEE「お嫁においで2015」のヒットがあったからかと思うが、ECDのこの曲についてはそのPUNPEE自身「楽曲、リリック、内容、構成、すべてひっくるめて、とにかく密度がとてつもないですね」(https://natalie.mu/music/pp/kayamayuzo/page/3)と絶賛している。もちろん、日本語ラップのレジェンド中のレジェンドECDと、世界的な評価を得ているGAGLEMitsu The Beatsが組んでいるのだから当然と言えば当然だが、それにしてもこの「リアル」の感触――「そう その塊みたいな奴さ」!――は無二である。ECDのことを論じるによく使われるのが、彼自身が提唱する「訛り」という考え方で、確かに昔からECDの訛りは他にない魅力を持っていた(もちろん全ての「訛り」は他にないものである)。しかし、また新たな訛りがここで歌われていると思った。ここでのECDはまるでおじいさんの喋りのように訛ってラップして穏やかだが、同時に「まじでつねられた」ときの痛みほどの鋭さを持っている。それがECDの「リアル」の凄みであり、ダントツの一位だった。がんばれECD

 大ベテランECDから一転、二位は作風もそれと正反対と言っていいようなニューカマーJP THE WAVYの「Cho Wavy De Gomenne Remix」で、ネットから一発でバイラルヒットし、多くのリミックスを生んだ一曲である。元(?)ダンサーらしくMVで披露しているダンスや、「超~でごめんね」というミーム的でキャッチーなフレーズがヒットの要因だろうが、「wavy」「lit」といったスラングの使用や、「もう終わってきてるdab」「Migos「Bad&Boujee」聞いて踊るpussy」など流行の最先端を導入した新世代らしさも魅力であろう。三位は、tofubeatsがKandy TownのYoung Jujuを招いた「Lonely Nights」。tofubeatsの才能も広く知られていたが、いまいちノリきれなかった私もこの曲にはやられた。「水星」などに明らかだが、そのある種センチメンタルなリリックがそもそも自分の好みに合わず、この曲も〈孤独な夜〉などと言って「27」歳の大人が「踊り足りない」と、まだ青春を懐かしがっているような内容なのだが、しかしメロディの先鋭さはそれを補うに十分というどころか、気づけば「頭使っててもまた間違う」などのラインにエモくなってしまっている自分がいたのだった。

 エモさで言えば、しかし四位のElle Teresaの情念の強度には目を見張る。沼津出身でゆるふわギャングとも親交の深いフィーメール・ラッパーで、「Bad Bitch 19 Blues」や「I don’t know」などの他の曲とも大変迷ったが、結局「Chanel」を選んだ。この曲をLil YachtyのクルーSailing Teamに所属するフィメール・ラッパーKodie Shane「Drip On My Walk」のパクリだと言ったところで何にもならない。そんなことは誰でも知っている。その上で、Elle Teresaは間違いなく最高である。彼女の口から「寒くなんかないよ 寒くなんかないもん」と言われると、他にない響きがある。あるいは、より強さにおいて勝っているのは、Kyle「iSpy」のビートジャックで歌われる「ほんとは止めちゃいたいのよタイム」という一節。Elle Teresaは曲を聞くだけでも十分だが、「ハーデスト・マガジン」のインタビュー(http://hardestmagazine.com/archives/1183)も大変素晴らしく、新世代のフィメール・ラッパーが登場したことを十分に確信できる内容となっていると思う。

 五位のLeon a.k.a.獅子「GUN SHOT」は、ともかくラップスキルが圧倒的で、確実に新世代の中でナンバーワンだろうし、その抜群のリズム感はSEEDAを思わせもする。いまだまとまった音源は出していないものの、サイプレス上野とロベルト吉野RUN&GUN」での客演や、今年発表されたSalvadorとの「I don’t give a fxxk」などを合わせて聞けば彼の天才は明らかだろう。若手の中では好みで言えばダントツである。

 六位のJin Dogg「アホばっか feat.Young Yujiro&WillyWonka」は、すでに一大勢力と言っていいだろう関西トラップを代表する一曲と言える。「あいつがああ言ったらこいつはこう動く」という素朴だがそれゆえに不穏なパンチラインを、Jin Doggのぶっきらぼうなラップが煽り立てるところが良い。何を考えているか分からないが、いつ暴れ出すか分からない危うさがあるような雰囲気も魅力である。また、客演のYoung Yujiroの「うわまじなにそれ嘘やろホンマに言うてん それどんだけ」の箇所も、ナチュラルな口語の大阪弁と二連の気持ちいいリズム感が合わさってクセになる。Yujiroの今年発表された「102号」は、同じ大阪のSHINGO☆西成の名曲「ILL西成BLUES」を想起させるようなリアルな街並みの描写が素晴らしい。WillyWonkaは2win、Weny、Leonらと同様高校生ラップ選手権組だが、相変わらず高いスキルと洒落たラップを見せている。WillyWonkaは「ニート東京」のインタビューで、トラップではなくリリカルなラップも好みで、いつかそれをやりたいと言っていたが(https://www.youtube.com/watch?v=NJeeu5JGMnA)、確かに二年前に発表していた「D.R.U.G.S.」はきわめて高いレベルのリリックを披露していた。加えてレゲエ・アーティストのVIGORMANとのユニット変態真摯クラブでもまた別の方向性に挑戦しており、高いポテンシャルを持っている。

 ここからはベテラン勢が続くが、七位はLIBRO「言葉の強度がラッパーの貨幣」。鎖グループの始動あたりから、かつてクラシックアルバム『胎動』で名を馳せた天才ビートメイカー/ラッパーが復活し、以来精力的に作品を発表し続けている中の一つとして、今年、セルフ及びDJ BAKUによるリミックスを多く収録したアルバム『祝祭の和音』を発表した。LIBROはほぼ絶対に間違いがないビートメイカー/ラッパーの一人だが、新曲もすべて完成度が高く、小林勝行や鬼との客演も豪華である。MVが出された「リアルスクリーン」は、このアルバムの主題にふさわしくキャリアを振り返った熱い一曲で、特に「なぜならまだ死んでない 進歩してる進行形で浸透中/漢のリリックに全部書かれてた 「マイクロフォンコントローラー」に重ねてた己/まだ覆い隠すかもう剥がすか 葛藤する途中の自分にとどめを刺すか/去り際一言背中押され急遽RECした3verse目」の部分は、盟友である漢との感動的なエピソードが歌われている。それとどちらをランキングに入れるか悩んだ末に結果選んだこちらの曲は、漢の「去り際一言」にラッパーとしての自覚を取り戻した後のLIBROがラッパーの条件や楽しみを歌った一曲である。考えてみれば「言葉の強度がラッパーの貨幣」というタイトルは、「理想論やディールや綺麗事やくさい台詞並べてるだけじゃ薄っぺらいお前の財布」(Ski Beats「24 Bars To Kill」)などと歌い、ラッパーの「言葉の重みと責任」(「次どこかで」)とメイクマネーを追及してきた漢のラッパー観と近いように思える。「リアルスクリーン」では「特に日本語の面白さ 韻と説得力視野の広さ」と歌っているが、「言葉の~」での「もっともっと、もごもっとも(中略)着地が決まればお見事」の箇所などはそれを十分に体現している。また、ビートのやばさについては言わずもがなであろうが(だってLIBROなのだから)、触れておくと、サンプルの声ネタをループさせたタイプのビートの一つであり、その例として例えば佐藤雄一「なぜ貧しいリリックのKOHHをなんども聴いてしまうのか?」でA Tribe Colled Questの声をサンプルしたLil Wayne「A Milli」や、Scars「My Block」などが挙げられているが、さらにその声ネタを早回ししたタイプとしてこれはCam’ron「Oh Boy ft. Juels Santana」などと同型と言えるだろう。

 八位はLIBROよりもさらにベテランのRHYMESTER「Future Is Born feat. mabanua」で、ここではラッパーの本質よりもさらに広く、ヒップホップの本質のようなものが歌われている。2MCどちらのヴァースも良く、特に宇多丸のヴァースはすべてを引用したいほどだが、いくつか拾ってみるならば「人々が忘れ去っていた街の片隅で誰かが歌い出す」、「壁にのこされたでっかいタグ まるで喧嘩腰の危ないダンス/大人のガイダンス抜きで生き残った異端児たちの媚びないスタンス」などのラインは率直に美しい。また、その中でも特に耳をひいたのが「マイクを通した新たなメディア ライムで書き足してくウィキペディア」という一節で、ヒップホップの本質をうまく表した詩的なパンチラインであり(73年に生まれたヒップホップがすでにウィキペディアなどのような新しさをはらんでいたということだろう)、批評家的な頭を持つラッパー宇多丸であるからこそだと思う。対してMummy-Dは、冒頭で流行りの三連を組み込みながら「上にも下にも何者にも媚びぬとこがイカしてた/ドレミファにもソラシドにも媚びぬとこがイカしてた」と、彼らのかつてのクラシック「B-BOYイズム」を想起させながら(「何者にも媚びず己を磨く」)、かつおそらく日本人ラッパーの中で最もリズムとは何かということを考え続けてきた(『ラップのことば』インタビューなど参照)彼らしいパンチラインを残している。さらに「海を渡って根付いたこの国のシーンは 熱いハート持ったマイノリティたちが支えてきたのさクオリティ」という一節は、日本語ラップブームの今、日本語ラップを無視し続けてきた日本人全員に聞かせてやりたい痛快なパンチラインである。

 続いてRHYMESTERの後輩Kick The Can Crewのカムバック作「千%」。往年のファンたちが歓喜した一曲である。サンプリングでのビート(どうやら演奏したものを元ネタにしたらしい)だが、音の感じはKREVAらしさが全開であるし、そもそも「千%」という題自体にも、「アグレッシ部」「ハヒヘホ」「BESHI」などちょいダサなタイトルが多いKREVAらしさがある。ラップも、固く韻を踏みながら見事に「キャラ立ち三本マイク」のスイッチが連続するところはKickらしい。1ヴァースはMCUだが、確かなスキル(というか前より上手くなった?)に加えて、「半端なく最高なアンバランス」、「水のよう自然なI REP」(KickではなくKREVAだが、MVで「I REP」というときのLittleがKERVAを指さしているのでその曲の言及と見てよいだろう)、「行くぞONE WAY」、「足伸ばすまた」(「カンケリ01」)など、彼らの過去の楽曲やリリックに言及して(制作前はそのような過去志向は無しだと話し合っていたらしいがMCUが聞かなかったそうだ)、ファンを喜ばせる。2ヴァースのKREVAは、オーソドックスと言えばそうだが、しかし何よりも強烈なKREVAパンチライン「恋は一秒もかからずに燃えるけど 心にはないぜ追い焚き機能」を残している。KREVA的と言えばさらに、フックの「経てからのここ」というのも同様である(『ダウンタウンのごっつええ感じ』に「経て」という有名なコントがあるが、それはおそらく関係ないだろう)。3ヴァースのLittleのトリッキーなライマーっぷりも相変わらずで、「生涯は長い長いマラソン互いに争うより よりやばい音楽を鳴らそう」「茶化したりしたり顔でバカにしたり その本気を笑いにしたり下に見たりしない」という短い韻の連打や、「まず案ずるよりバズるBigな番狂わせ 「Kick The Can Crew」again」という長い韻までをこなしている。

 十位はJAZZ DOMMUNISTERSに漢が客演参加した一曲「Blue Blue Black Bass」。菊池成孔大谷能生のユニットで、二人の(特に菊池の)音楽評論家としての、広い知見と精通した音楽理論にもとづく仕事については最大限にリスペクトしているものの、ラップ自体の出来が「音符も読めないし楽器もでき」(「マイクロフォンコントローラー」)ず、「映画とか読書とかなんてどん臭い趣味はねえ」(「光と影の街」)漢に遠く及ばないことはあえて言うまでもなく(当人らもそんなことは当然承知しているはずだ)、そしてそここそがこの共演の最も楽しい部分である。漢はこのアルバム『Cupid & Bataille, Dirty Microphone』には、二曲参加しており、もう一方の「悪い場所」でもかましている。良くも悪くも衒学的な(そもそもタイトルの「悪い場所」自体、美術批評家の椹木野衣『日本・現代・美術』で有名になった批評タームである)菊池に呼び込まれた漢は、剣桃太郎「Dog Town」での懐かしいヴァース(「独断と偏見ですべてを切り開け~色仕掛けか命がけ」)を自己引用し、「イル」なフロウで、いつものように日本一の頭韻巧者かつ長文リリシストっぷりを発揮しながら「イルなネガティブな奴もいつか芽が出るとメディカル目的で四葉の代わりに手にする緑の五枚葉」などと、怪しいパンチラインを残している。そちらも良いが、ビートが好みで、かつホストの方のラップも前者に比べて優れており、フックも耳に残るので「Blue~」の方をランクインさせた。こちらの漢も圧倒的で、「天変地異が起きてこの国の機能が停止したわけでもねえし/インターネットで見れるレベルの陰謀論じゃ話にならねえ」の部分はフロウもハメ方も完璧で、続いて「同じ目線で冗談言うなよクソ凡人」という一句は日常生活でイラっとしたときに使いたくなるようなパンチラインであるし、さらに「さらさらまともにやるつもりもねえ 命さながらで貫くゲーム」というMSCのクラシック「音信不通」からの自己引用にもテンションが否応なく上がってしまう。

 十一位は、高校生ラップ選手権組の一人dodoの「swanging like that」である。dodoを有名にしたのはおそらくサイプレス上野とのビーフだったろうが、陰キャ的(下品で気持ちの悪い言葉なので本当は使いたくないが)メンタリティを押し出したラップとキャラで、好みではなかったのだが、この曲の先鋭さにはさすがに驚かされた。音自体はアトランタ的な流行りと言えようし、オートチューンの使用も同様だが、反対にラップの方は柔らかく、短い韻を丁寧に強調しながら配置し、かつリリックもその韻の連続にしたがって転々としながら連なってゆくある種古いタイプのラップスタイルと言え、このようなビートとラップの間の齟齬、不和、衝突が絶妙な新しさを生んでいる。

 十二位はI-DeAのアルバム『Sweet Hell』に収録された「DeA Boyz feat. D.O」。D.Oがラップの天才であることは繰り返す必要もないが、ギターが甘美なビートに倍速ラップを乗せて、「悪党」の「路地裏のブルース」を歌った名曲である。日本でラッパーとしての生き様を貫いて、ストリートで生きながら、お茶の間にも広く知られたD.Oが、「テレビかなんかでアホ面並べてyo yo yoとかやっぱダセえ」といったラインを吐くことはともかく感動的であるし、また些事ではあろうが、「場合によって野垂れ死になんて」というD.Oに続いて「よくある話で珍しくもねえ」とD.Oの一番弟子的なT2Kが入ってくるのも熱い。

 十三位はヒップホップバンドBullsxxtの「傷と出来事」で、仙人掌を客演に迎えアルバム『BULLSXXT』から先行公開されていた「In Blue」や、MVが出た「Stakes」とも悩んだ。「In Blue」を聞いたときは、UCDのラップが平坦で、それゆえにフロウもライムも複雑な仙人掌の技巧が目立っていた。とはいえ、仙人掌が客演すればホストが誰であっても食われてしまうのが宿命であり、SEEDA、BES、NORIKIYOでさえも仙人掌に見事に食われた経験があるのだから、それは仕方のないことである。アルバムを聞くと、ラップが素朴なのはその曲くらいで、十分なスキルを持っていると思った。また、ポリティカルに寄らずあくまでラッパーとして、ヒップホップ的なマナーに則った作品であったのも潔いと思うのだが、多くの日本語ラップに詳しいだけの人々は通俗きわまりない呂布カルマ(ラップについては置き、PCも知らぬ無知に居直るその考え方が、である)の方が好きなようであるし、しかし翻ってBullsxxtのリスナー層の多くは「Stakes」がたとえばDe La Soul「Stakes Is High」へのオマージュであることに気付くことができない様子でもあり、このような需要のされ方自体が、アルバム収録曲の題を借りて言えば、まさに「Sick Nation」の兆候そのものではないかと感じたりもした。それは置いておくとして、「傷と出来事」をランキングに選んだのは、この曲がSEEDA「花と雨」タイプの楽曲だったからだ。それは確かに死者を悼み、祈ることが主題の曲だが、それ以前の例えば「How many brothers fell victim to tha streetz/Rest in peace young nigga there’s a heavean for ‘G’」という一節も非常に有名な2Pac「Life Goes On」などとは一線を画す。「花と雨」タイプの楽曲(と私が勝手に呼んでいる)は、そのリリックを構成するに、死と日付が重要な役割を果たす。拙文「ライマーズ・ディライト」(『ユリイカ 2016年6月号』)の時からこのことが頭にあり、そこで「花と雨」と並べて論じた般若「家族 frat. KOHH」も実はこのタイプの楽曲である。「花と雨」の「2002年9月3日」は、日本語ラップリスナーならば誰もが知っている有名な日付だが、「家族」でも、それぞれ「94年7月」(般若)、「1992年1月15日」(KOHH)と日付が出てくる。さらに決定的なのがRyugo Ishida「Fifteen」で、「小学二年手紙で知った 昨日のことのよう9月3日/記憶だけのパパは空に行った」と、「花と雨」と同じ日付(命日)が登場するという奇跡としか呼びようのない事態が起きている。「4月29日」を銘記する「傷と出来事」もその系譜に連なる一曲であり、「今年の4月29日もまた再会できないからバイバイすらしないでいなくなった人を想う暇もなく/祈るように生きる」というのは、「出来事」と祈りの本質を言い表している。この曲のタイトルはフランスの詩人ジョー・ブスケの同名の著作から取られているが、「花と雨」と「傷と出来事」の意義を確かめるには、例えばブスケについて論じられるドゥルーズ『意味の論理学』「第21セリー 出来事」なども参照したいが(「Fxxin’」で「俺は学者になるつもりだが」と宣言するほどであるから、UCD自身念頭に置いているだろう)、ここでは置く。それよりも、ここにブスケが加わるに至って、「花と雨」の新たな射程が浮かび上がってくる。ブスケは第一次世界大戦で受けた傷によって半身不随で生きた詩人であった。そこで日本語ラップヘッズならば誰もがすぐさま思い浮かべたであろうが、日本語ラップにはそのような傷を詩にしたラッパーが存在している。もちろん、ビルから飛び降りて大怪我を負い、医師から一生車いすだと宣告されもしたNORIKIYOである。その彼の足は(同じ病室だった義足のおじさんの予言通り)奇跡的に治癒するのだが、彼がファーストアルバム『EXIT』でシーンに衝撃を与えたのは、そのような傷をリリカルに歌ったからであった。「IN DA HOOD」では「今でも夢に見る しょうがねえ転げ落ちた崖 片足でも立てる?」などと歌い、またセカンド収録の「RIVAXIDE CITY DREAM」では「覗き穴先 雨ふりの空/古傷のPainも 2年経ちゃ慣れる」、新作『Bouquet』収録「Memories&Scars」でも、同じ主題が扱われ「『10分以内に雨が降る』 古傷はそっと痛ぇ」とあるように、彼の傷は「雨」と深い関係がある。〈傷と雨〉についてはじめに歌った一曲が、ほかならぬSEEDAを客演に呼んだ「Rain」で、「古傷が痛む もうすぐ雨が降る」と歌い出され、さらに「水はやれど花は咲かず」といったリリックもあるように、明らかに「花と雨」からの影響が強い(というよりもNORIKIYO自身何度も、『花と雨』の衝撃について語っている)。「花と雨」以下の曲で歌われる命日も、NORIKIYOの古傷の痛みも、どちらも「出来事」の痕跡であり、それが予告されており、周期的に反復されるものであるという点が重要だが、これ以上深く立ち入ることはやめておき、そのようなNORIKIYOが日本にとっての決定的な出来事と日付である〈3.11〉を決して忘れることなく、OJIBAHとの「そりゃ無いよ feat. RUMI」やKen The 390への客演「Make Some Noise」、また『Bouquet』収録「何で?」などで、そのことを継続して歌い続けていることを明記するにとどめておく。いつか本格的に論じてみたいが、日本語ラップの歴史の中で起きた数多くの奇跡の中で最も捉えがたく、しかし最も偉大なのは「花と雨」と「傷と出来事」に関わるものなのであり、Bullsxxtはその系譜に連なる日本語ラップである。

 十四位と十五位はどちらも主にライムの観点から評価した。STPAULERSはどうやら池袋BEDを拠点に活動しているラッパーのようだが、ビギーの有名なパンチラインをサンプリングした「DJ SPACE KID」による「川崎ビーツ」に、いまや貴重な押韻主義的なラッパーKNZZのラップが素晴らしい。特に「Kick in the door, live in Tokyo 自信過剰なら因果応報/でもビビんなよ 理不尽な状況から逃げる野郎チキンはGo home」(筆者の聞き起こしだが、「live in the Tokyo」と言っているように聞こえるものの、英語的にそこに「the」が入ってよいのか分からず、またこの一節の引用元のビギーの歌詞は「waving the four-four」なのだが、KNZZが「waving」と歌っているようには聞こえないので、不正確な引用になっているかもしれない。気になったが分からなかったので記しておく)の一連の流れから、ライムを変えての「バックギアない一方通行 fuckしがらみ新興宗教/トラップに嵌り執行猶予 待つしかないインタールード」までの部分は、固い韻に意味も通しながら、ストリートで生きる彼にしか吐けないようなパンチラインが続出している。この曲と悩んだのがA-THUG&DOGGIES「DMF ANTHEM」で、他の人も挙げるだろうから、一月に出されて忘れられていそうなこちらにしたのだった。しかし、「DMF ANTHEM」も最高で、KNZZの固い韻のラップは相変わらずであり、冒頭の「2017 実験中まだ」の入りは完璧であるし、「小さな気遣い静かな息遣い」などもリリカルだが、何よりこの曲はA-THUGの規格外のぶちかましたフロウ(と呼んでいいのかすらも分からない)が突出しており、「月の光 バラの花」や「struggleだけどbeautiful」、「say hoとかput your hands up そんなスタイルじゃ乗れないな」などの箇所は、A-THUG以外のラッパーがやれば一発アウトに決まっている。

 KNZZ同様に、日本最高峰のライマーであるMEGA-Gのラップが聞けるのが十五位Chino Braidz「Dejavu」で、偶然だが十四位同様にこちらも「まるでJUICYなFRUITみたいに 甘くて酸っぱいブルース次第に/染みるようになる」という一節でビギーが意識されている(推測にすぎないが、おそらくビギーの名曲「JUICY」にハマり、その元ネタMtume「Juicy Fruit」も染みるようになったということだろう)。かつてZeebraが組織したURBARIAN GYM(通称UBG)時代の旧友同士の共演(MEGA-Gは正規メンバーではなく練習生)で、二人の恩師であるZeebraからのシャウトも入っている。Chino Braidzの名をはじめて知ったのは、Zeebra『The New Begining』収録の「Beat Boxing」であったが、ここではUBG出身らしい(Zeebra的な)ラップで、特に2000年代前半の日本語ラップシーンを回想した「目の前で起きてた まさに奇跡が/UBG 走馬党 カミナリ マルモウ FG MS 問う今日 東京ナイチョー/新しかったドーベルマンインク」には誰もが胸が熱くなってしまうはずだ。そして、完璧な倍速ラップで、固い韻を次々に踏んでトラックを走るMEGA-Gが圧巻である。リリックの内容も、ヒップホップについての知識が豊富なMEGA-Gが勉強に励んだ若き日から、UBGでの訓練の毎日が歌われ、貴重である。特に、「一度火が付けばフリーズないマンションの一室が異質なフリースタイルダンジョン」の一節は、固い脚韻に、心地よい中間韻が挿入されてライム巧者としての面目躍如であるし、また最後の「NO PAIN NO GAIN 条件のゲーム当然挑戦BET MY LIFE/どうせ冒険なら上限まで張るぜデカく 勝利の女神が微笑む瞬間まるでデジャブ」は、怒涛の全踏みから、意味も語彙もラップゲームをギャンブルに喩えた内容で完璧に統一しつつ、固い脚韻に自然に繋ぎ、曲のタイトルである「デジャブ」でヴァースを締める手際はまさに職人といったところである。また余談にはなろうが、注目したいのが、「Buddhaのオーパーツ提供され イルでいる秘訣継承されど」という一節である。MEGA-Gはヘッズ的な感性が強いラッパーであるが、おそらく彼が特に尊敬しているラッパーが三人おり、まずUBG時代の師であるZeebra、そして彼もその近くにいるMSCのボスである漢、そしてBuddha Brandである。ここで言われている「Buddhaのオーパーツ提供され」というのがどの曲のことを指しているのか、調べられず今のところ分からないのだが(このリリック同様のことをここでも言っている→http://www.hmv.co.jp/newsdetail/article/1608121020/)、Primalへの客演「ブッダで休日」や、「人間発煙所」、「暴言」などがあり、Dev LargeやBuddhaへの尊敬があることは知られている。

 

 と、ここまでまとまりもなく長々と、思うままにつらつらと書き連ねて、あらためて日本語ラップの豊かさを思い知らされた。ここで触れられなかった作品も数え切れぬほどあり(MONYPETZJNKMN、Awich、RAUDEFなど挙げきれない)、またここで触れた作品や曲、アーティストについてもまだまだ語り足りないことが山ほどある。加えて、気づけば今年は批評文と呼べるような文章を自分が一つも書かなかったことも多少悔やまれると言えばそうだが、今の状況では「日本語ラップ批評」など不可能で、その前に書くべきこと、やるべきことが多々あるとも考えているので、それは来年の抱負ということにしておこう。2018年の日本語ラップも楽しみだ。

SALU「Sweet and GoodMemories」についての雑感

 SALUのミックステープシリーズ『BIS』(Before I Singed)の第三弾『BIS3』が10月13日に公開された。そもそもSALUは日本でフリーダウンロードのミックステープを上手く利用して成り上がるという手法をいち早く取り入れたラッパーの一人だった。一作目のミクステ『Before I Singed』は2011年の末に公開された。周知の通りSALUと並走したのがAKLOで、般若が2013年に「時代はやっぱりSALUとかAKLO」(「はいしんだ feat. SAMI-T」)と歌ったのは有名である。ミクステに関して言えば、2009年に『DJ.UWAY Presents A DAY ON THE WAY』を出しているAKLOの方が早いのだが。SALUAKLOが並べて語られるのは、それぞれのデビューアルバム『IN MY SHOES』、『THE PACKAGE』を、日本屈指のビートメイカーBACH LOGICが主宰するレーベル、ONE YEAR WAR MUSICから2012年に発表しているからである。ちなみに、このBLのレーベルはSALUのために立ち上げられたものであるというのは非常に有名なエピソードであり、あのBLが太鼓判を押すのだからということでSALUAKLO鳴り物入りでデビューしたわけである。BLはまずDOBERMAN INCのプロデュースがそのキャリアの第一に挙げるべきであるが、やはり彼の仕事で最も決定的なのはやはりSEEDA『花と雨』であり、またNORIKIYO『OUTLET BLUES』も全面プロデュースであり、SEEDAとNORIKIYOという日本語ラップ史上最も魅力的な二大巨頭の作品に携わったというところがそのプロップスの源泉だろう。本題のSALUに戻るが、SALUにはBLともう一人有力なビートメイカー/プロデューサーが付いており、それはSEEDAにBLとI-DeAがいたようなことと似ている。ESTRA(=OHLD)である。SALUが世に知られる前からの仲だそうだが、OHLDはすでにSEEDA&DJ ISSOの『CONCRETE GREEN』に入っている楽曲のビートメイクを担当しており、おそらくその繋がりからだろうがSEEDASEEDA』に楽曲を二曲提供し、さらにSEEDAがILL-BOSTINO、EMI MARIAをフィーチャーして出したヒットシングル「WISDOM」のトラックを担当して名を上げつつあった。つまりSEEDAのフックアップがあったと言ってよく、SALUはそのOHLDを介してSEEDAと出会うことになる。そして、SALUのキャリアのごく初期の2010年の段階(『BIS』もまだ出していない)でSCARSの『THE EP』にOHLDとともに参加している。つまり、SALUもまたSEEDAのフックアップを受けたということだ。EP制作中の時期のブログにもSALUのことを書いている(http://seeda.syncl.jp/?p=diary&di=524915)。このEP参加はSALUにとって決定的であり、そこではじめてBLと出会い、上述のようなアルバムデビューを飾る運びとなる。Amebreakのインタビューでは、SEEDAからの大きな影響を語りつつ、その時の様子を話している(http://amebreak.ameba.jp/interview/2012/03/002698.html)。

 本題に入るが、『BIS3』から先行してYoutubeにMVをアップされた「Sweet and GoodMemories」は今年出た曲の中でもずば抜けて完成度が高く、まずはその曲を聞いてみたい。

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 今、HIP HOPの世界ではラップにメロディーを付けるのが流行している。この潮流がどこから始まったのかを正確に知ることは手に余る仕事だが、例えば「A Brief History of Rappers Singing」(https://t.co/Y2rR8GjnmZ)という記事を見つけた(他にもっとまとまったものがあるかもしれないがとりあえず手近だったので)。重要なところだけを取り出せば、やはり今の流れに直結するのはDrakeの登場という事件だったようである。記事中に出てくる「Best I Ever Had」(https://www.youtube.com/watch?v=fgdAj2_ZKSc)はDrakeのファーストアルバム『Thank Me Later』からのシングルカット曲で、彼の他の多くの曲でもそうなのだが、Drakeはヴァースでラップ、フックで歌という形式を好むということはよく指摘されていた。しかし、ヴァース部分のラップもまたルーズであり、彼と双璧をなすLil Wayneとともに新しいラップスタイルだったのであり、そのことがメロディーをラップに持ち込むことを可能にしたと言いうるかもしれない。SALUが出てきた時、よく言われたのが独特の伸ばした語尾のラップについてだったが、それはDrakeなどからの影響と見てもよいのではないだろうか、よく検証したわけではないので大きなことは言えないが。ともあれ、そうしたラップスタイルの変動は、ラップの譜割りやビートの掴み方を変え、今の流行のラップに繋がっているだろう。すなわち、トラップに顕著な三連符を多用した過度に言葉を詰めたラップと、トラップ以降の潮流であるメロディアスなラップである。この二つは、一見違うもののようにも思えるが、ビートを捉える視点は同じで、そこから派生したものではないかと思う。が、これもまた十分な検証を要するだろう。言いたいのは、SALUの今年の動きの中で面白いのが、「Sweet and GoodMemories」が完全にラップと歌の境界を無効にするようなものである一方、JP THE WAVY「CHO WAVY DE GOMENNE REMIX」ではトラップ的な乗り方を完璧にこなしてみせ、かつ圧倒的なスキルを見せつけたことである。

 若手ならばこうしたことを軽々とやってのけるラッパーは多い。例えば、今年大傑作アルバム『Mobb Life』を発表したBAD HOPは、そのキャリアのはじめに大きな影響を受けたシカゴ産のドリル・ミュージック的なスタイルを発展させた表題曲「Mobb Life」や「I Feel Like Goku」(T-Panblow『Super Siyan』からの再録)を披露する一方、日本で今最も高度なsing-rapだと言える「Ocean View」や「これ以外」を同じアルバムに入れるという幅を見せている。ここで、SALUの「Sweet and GoodMemories」を注意深く見てみると、これらのラップスタイルの大きな変動を可能にした、さらに深い源泉が見えてくるように思う。

 

あれは十七の夏の話 甘くて淡い物語

あの子はハタチで俺らより大人 だけどまだあどけない

 

 この歌い出しから明らかなように、曲の主題はBack in the days的な青春の物語である。高校生の時分に年上の女性に恋をしたという話題だが、このトラックにはサンプリングの元ネタがある。アメリカのフィメール・ラッパーであるTrinaの「Da Club Ft. Mannie Fresh」(2005年)である。この、クラブで魅力的に踊る女性が主題である「Da Club」の歌い出しは以下である。

 

Ladies and gentlemen!
I was 18, and she was 25
And I was kinda fast for my age

 

 ここで歌われている、年上の女性に対して若者が分不相応かと逡巡しながらも憧れるという典型的にロマンチックな心情を、SALUはオマージュしているわけである。もっと言えば、フックの「The club went crazy」という一節もこの二つは共有しているし、そもそも一曲全体のSALUのフロウはMannie Freshのフロウを丸ごと取り入れている。もちろんパクリだなどと言いたいわけでは全くない。歌的なラップが持ち込んだ面白さの第一は自在なメロディの変化を味わうことを可能にしたことだと思うが、その点SALUは完璧であるし、また3ヴァース目の「金曜の夜にDAZZにイベントに行き/土曜の昼からBBQをして/またクラブに行って日曜はみんなで夜まで寝た」という一節は独創的で、圧巻である。この部分は息継ぎなく一息に歌われるが、ラップにおける句跨ぎ的なこの技法を上手く使えるラッパーは数少ない。そもそもこうした技法は、ラップ・ミュージックの形式的な本質をなす小節というものに対して鋭敏でなければならず、こうした意識を持つラッパーが貴重なのは言うまでもないことだ。見事な先例を上げておけば、雷「2U」のD.Oの「アニキの想像通り色んなこと言ってるぜ関係ねえヤツがシャバじゃ/でも余計なこと考えずに身体だけは気を付けろよな」というラインや、般若「家族 feat. KOHH」の「 『達雄が私を呼んでる』つって/9階ベランダから飛び降りて自殺しようとする」というKOHHのラインなどがある。

 話が逸れたが、ビート、フロウ、リリックがサンプリングに基づいて作られているこの曲が可能になったのは、やはり今のメロディアスなラップの流行があってこそだろう。元曲は2005年で、その時点ではフック=歌とヴァース=ラップは分けられていたが、2017年のこちらの曲では、元曲のフックのフロウが一曲全体に用いられているからである。しかし、SALUは曲中にもう一つ別の曲から引用をしている。

 

君と踊った最後の夜 

時計の針あの日に巻き戻す

Snap yo fingers, Do yo step

You can do it all by yourself

 

 後ろ二行は、T-Pain「Buy U A Drank (Shawty Snappin') ft. Yung Joc」(https://www.youtube.com/watch?v=dBrRBZy8OTs)の冒頭で歌われている一節を引用したものである。実は、T-Painのこのフレーズ自体がLil Jon「Snap Yo Fingers」(https://www.youtube.com/watch?v=AoA-ByjIf2M)からの引用なのだが、SALUの曲調から明らかだと思うが、Lil Jonのクランク的なノリをこの場に持ち込もうとしたとは考えられないのでT-Painからの引用と見て間違いはないだろう。「Buy U A Drank」もまた、「Da Club」と同様にクラブで踊る女性がテーマになっている。そうした文脈を踏まえたこの引用は見事と言うほかなく、その前に位置している「君と踊った最後の夜」という一節が、「You can do it all by yourself」に別れの意味を新たに付与して上手く引き立てている(「Buy U A Drank」は、タイトルからして「一杯奢るよ」といった意味であること――細かく言うとdrankはおそらく酒ではなく、ドラッグとして使用される咳止めシロップとスプライトなどのジュースを混ぜたものを指すらしいのだが、よく分からない――からも明らかなようにナンパ=出会いの曲である)。

 しかし、こうした巧妙な仕掛けに加えて、さらにSALU自身の自伝的な要素がここに絡んでくる。この曲が「あれは17の夏の話」と歌い出されることを思い出そう。SALUは1988年生まれであり、ということは2005年に彼は17歳だったわけだが、この曲の元ネタである「Da Club」は2005年発表なのである(正確には10月なので夏を過ぎてはいるが、それは切り捨てるべき誤差として見逃したい)。歌詞ではさらに「19の俺は相変わらず/クラブに行っては全く働かなく」というように19歳=2007年の時期が歌われ、そこでその年上の女性と別れたことが歌われているが、念入りなことに「Buy U A Drank」もまた正確に2007年発表なのである。

 いささかストーカーじみてきたが、こうした仕掛けによってラッパーはリアルを創出するのだということは言っておきたい。『サイゾー 2017年6月号』に寄稿した「漢、Zeebra、ANARCHY……ドラッグの密売体験も激白!ラッパー自伝の“リアル”とは?」(http://www.premiumcyzo.com/modules/member/2017/06/post_7618/)でヒップホップを私小説的だと言うのは間違いであると書いた。補足して言うなら、私小説的であるヒップホップもあるかもしれないが、それは往々にして堕落した形のものであり(最も偉大な例外としてSEEDAをはじめとするCCG一派の内省的なハスリング・ラップがあり、OKI「四畳半劇場 feat. NORIKIYO」などが代表例だろう)、真にヒップホップ的だと言うべきは「自伝的」なものなのである。そして上記の拙文で触れた漢『ヒップホップ・ドリーム』と似た工夫としてSALUの厳密すぎる引用の仕掛けがあると言えるだろう。

 余談が過ぎたので整理しながら、話を進めよう。SALUは2005年に「Da Club」を聞きながら遊んで暮らし、2007年に「Buy U A Drank」を聞きながら恋した女性と別れた。2010年、OHLDを介してSEEDAと会い、SCARS『THE EP』に参加し、そこでBACH LOGICと出会い、アルバムを出すまでに二枚のミクステ『Before I Singed』『BIS2』を出した。その後精力的な活動を続けていたがそれは省略することにして、現段階で最新のアルバム『INDIGO』(2017年)では、OHLDを介してだろうニューカマーゆるふわギャングと共演したり(OHLDはゆるふわギャング『Mars Ice HOUSE』に参加している)、バイラルヒットした「CHO WAVY DE GOMENNE」にいち早く反応し、先日発表の『BIS3』に至る。

 「Sweet and GoodMemories」は、今の最新の流行に食らい付いている曲だと思うが、しかしその元ネタは2000年代半ばから後半のUSのHIP HOPにあった。その時代のHIP HOPはまさにサウスが勢いをどんどん増していった時代であり、R&Bが広まりだし、またヒップホップがR&Bと接近した時代でもあったと言えるだろう。もちろん、ずっとヒップホップとR&Bは強い結びつきを持っているが、現在の流行に直結するものとしてはこの時代の現象が決定的であっただろう。

 この時、これらのUSでの動きに最もアンテナを張り、いち早く反応したのがSEEDAだったと言える。SCARSの2nd『NEXT EPISODE』は2008年だが、同じ年に開設されたSEEDAのブログ「CONCRETE GREEN BLOG」(http://seeda.syncl.jp/?p=diarylist)を見てみると、当初はきわめて頻繁に「BLOG DJ」などといった題の記事でアメリカで発表された新曲をブログ内で数多く紹介している。実際、その成果は『NEXT EPISODE』収録の一曲「ONEWAY LOVE feat. BRON-K(SD JUNKSTA)」などに表れていると言える。今では当然だが、当時としては珍しくオートチューンを使用したメロディアスな一曲で、本人は遊びで使ったと言っているが、T-PainやLil Wayneなど当時の流行の影響であることは間違いない。付言しておけば、日本でそれよりもさらに早い時期でのオートチューン使用の例にKREVA「希望の炎」(2004年)があり、メロディアスなラップも早い段階で披露している。KREVAは他にもKick The Can Crew「TORIIIIIICO!」では「We got flowでなんかこうなってラッパーは歌ったっていいぜ」と言っているし、RHYMESTER「ウィークエンド・シャッフル」のKREVAのヴァースでも歌っている。さらにSEEDAに引きつければ、熊井吾郎「GOOD BOY, BAD BOY feat.SEEDA, KREVA」(2009年)でもオートチューンが使われ、KREVAがフックを歌っている。

 SEEDAはさらに、「ONEWAY LOVE」で共演したBRON-Kと、同アルバムに二曲ミックスで参加したOHLDと三人の共同で、2010年にEP『DESERT RIVER』を発売する。サウンドにこだわることを目標として制作されたというこの一枚は、メロウなラップを得意とするBRON-Kときわめて高いセンスを持つOHLDと、最も音楽的な意欲に満ちた時期のSEEDAの三人の力を合わせた一枚だが、まさにこれらの時期に試みられた先見的な音楽を今引き継いでいるのがSALUだということが言いたいのだ。

 ここでBRON-Kにも触れておかねばならない。周知の通り、SD JUNKSTAの中心メンバーであり、メンバーとしてはNORIKIYO、TKCに次いで三番目にファーストソロアルバム『奇妙頂礼相模富士』を2008年に発売している。『NEXT EPISODE』と同年だが、そこではメロディアスな「ONEWAY LOVE」とは異なり、きわめて細かい感覚でリズムを刻む才気あふれるラップを披露している。その後、メロディアスな方のラップを磨き多くの客演仕事で活躍し、セカンドアルバム『松風』(2012年)に結実することになる。後付けに過ぎないかもしれないが、BRON-Kのこの幅は、トラップとそれ以後のメロディアスな方向性を先取りしていたと言えるかもしれない。少なくとも、ドラムの一打一打全てに絡んでいると言いたくなるほど繊細なリズムの刻み方は、独特の感覚で間を作り出しており、その彼がまたきわめてハイセンスなメロディを歌っているという事実は興味を引くはずだ。

 こうしたとき、サウスが隆盛してきていた時期の2008年周辺のヒップホップを摂取したDESERT RIVERの試みは、OHLDという具体的な人物を通してSALUに受け継がれていると言えるだろう。それらは同根なのであり、そして今のヒップホップの潮流の元になっているのである。SALUもまた、ビートアプローチがきわめて独特なラッパーであり、かつメロディセンスにも優れているが、SEEDAのきわめて早い耳と、BRON-Kの独創的なセンスが今のSALUを準備したと言えるのではないか。

 SEEDAらがほぼ同時代的に反応したヒップホップの上に、今の若手のラッパーたちが参照するUSの最新のラッパーたちがいることは間違いない。「Sweet and GoodMemories」が面白いのは、最先端のメロディーラップとして稀有の完成度を見せながら、同時に最新の潮流の起源となっている時期のヒップホップをサンプリング、引用しているところだが、さらにそれを曲の主題であるBack in the days的な身振りと結び付け、そこに自伝的な要素をさえも絡めて、引用やサンプリングを必然的なものにしている。引用やサンプリングというコンテクストへの意識と、曲=テクストの主題が密接に絡んで、さらにラッパーの自伝的な物語と重なりながらヒップホップや日本語ラップの歴史を暴くという、奇跡と言ってもいいような事態が見られるとも言い換えられるだろう。

SEEDAについて誰もが知っている二、三の事柄 あるいは語り草の束

※この文章は「SEEDA入門」といったものとしても、ましてや「SEEDA論」としても、「SEEDAを通して見る日本語ラップの歴史」としても、「日本語ラップ入門」としても読まれることを望まない。また、このような文章の書き手が私である必然性が皆無であり、むしろ日本語ラップにまったく日本語ラップに詳しくない私よりも、ただ日本語ラップに詳しいだけの多くの人たちにこそ書いてほしい文章であった。なぜなら、この手の文章は一切考えることを必要としないものであるから。したがって、日本語ラップに詳しいだけの人には、この文章の補足や、誤りの訂正をお願いしたい。本来の書き手となるべきはあなたたちであったはずだから。また、この文章の読み手は本来存在してはならない。なぜなら、題にあるようにこの文章に書いてあることは「誰もが知っている事柄」を記しただけであるから、常に(ということはむろん、既に)、誰もが知っていなければならない事柄だからである。以上のような、多くの矛盾を抱えているにも関わらず、私は文章を書いた。また、常識的なことを記述するだけと言いながら時に非常に主観的な記述があると言う点もこの文章が抱える矛盾の一つである。しかし、それも必要であると判断し、採用した方法である。であるから「SEEDA論」ではないのだ、と繰り返し断っておく。また、この文章には本筋から脱線した余談が数多く含まれてもいる。それらも全ては日本語ラップの聞き手に共有されるべきことを、きわめて貧弱である私の知識を通じて少しでも記しておきたいと思ったからである。特にこの部分においてこそ、日本語ラップに詳しいだけの人たちの助力を仰ぎたい点である。だから「SEEDAを通して見る日本語ラップの歴史」ではないのだ、と繰り返し断っておく。この文章は二つのもので構成されている。情報の列挙と筆者のふとした想起や思い付きである。しかし、資料的な価値はなく、また面白みもない文章である。非常に不十分であり、中途半端であり、矛盾を多く抱えたものであるが、それでもこの文章は必要だと思った。

 

 

 

SEEDAの代表的なアルバムを紹介していきたいと思います。

『GREEN』 2005年

このアルバムはSEEDAがいかに当時異端であったかを思わせてくれます。聞いてみればわかるように、超高速フロウのバイリンガルラップを、多少の乱れやビートとのズレも構わずに叩き付けています。若き日のSEEDAがいかに、日本語ラップという枠を飛び出て、世界へということを夢見ていたかが感じられる作品です。特に注目されたのがフロウで、SEEDA日本語ラップのフロウを新たな次元に引き上げたのだと言えます。このアルバムの前作『ILLVIBES』でも、彼はこのアルバムと同じスタイルでラップをしています。また、彼は2003年、B-BOY PARKのMCバトルに出場しており、YOUTUBEでその様子を見ることができますが、その時点で、この『Green』のスタイルが出来ていたことが分かります。しかし、SEEDAの新しいラップは観客や審査員に十分に理解されていたのか、疑問が残ります。しかしまた同時に、理解されなかったであろう理由もまた理解できます。

早口ラップは、何もSEEDAの特権ではありません。2000年代の初頭から半ばの時期には多かったラップのスタイルです。DABO「レクサスグッチ」、LITTLE「MC~殺人マイクを持つ男~」などがありましたし、また当時のアンダーグラウンドの雄としてMSC(ILL BROS)「新宿アンダーグラウンド・エリア」、メジャーではSOUL'd OUTの「ウェカピポ」をはじめとするヒットがあり、2004年にはTOKONA-X「I'm in Charge」など、早口ラップは当時の流行の一つだったと言えます(あるいは、一般的にはラップとは早口なもの、と思われていたようでもあります)。早口にはいくつかの機能がありますが、その一つにスキルの誇示があるかと思われます。それは特殊技能であって、とても分かりやすく人を圧倒でき、であるがゆえに浅薄であるともいえるのですが、そのようなものでした。1997年に発売されたBY PHAR THE DOPESTKREVAとCUE ZEROのユニット)のシングル『切り札のカード』のB面「伝道師」(ヴァージョンは違いますがアルバム『BY PHAR THE DOPEST』の隠しトラックとしてアウトロにも収録されており、こちらの方がオリジナルよりもスピード感が感じられます)のKREVAの有名なヴァースも当時としては非常に先鋭的な早口フロウを取り入れており、超絶スキルの持ち手としてシーンを騒がせたようです(2011年「基準」の早口が有名ですが、そもそもKREVAはデビュー当時からこの手の早口で周りを黙らせる、ということをしてきたようです)。早口は計測可能であるがゆえに、どんなに耳が悪い人間でも、そのいかんともしがたい物量には、平服せざるをえない、そのようなものです。事実、EMINEMの「RAP GOD」はギネス記録に認定されました。

ちなみに、EMINEMはアメリカの白人ラッパーで、世界で最も有名なラッパーの一人です。元N.W.Aで、西海岸の大物であるDr.DREのフックアップを受け、過激なラップと、卓越したスキルで鮮烈にデビューしました。「MY NAME IS」「STAN feat. Dido」「LOSE YOURSELF」「 Love The Way You Lie feat. Rihanna」などは世界的にとても有名な曲です。

SEEDAはこのような早口ラップの流れに位置していた、と言うことが出来ると思います。もちろん、その圧倒的な速度の中に、独自の強弱、独自の響き、独自の発声などがあったことは言うまでもないことですが。おそらく、SEEDAは速さの中にエモさを取り入れることができた数少ないラッパーであった、ということが出来るのではないでしょうか。速さという量的なものの中に、質的なもの(声の独自の魅力的な響きで、SEEDAの声には主に苦しみの音色が感じられると思います)を取り入れるには、より一段上のスキルが必要であると思われます。ちなみに、高速ラップの系譜を受け継いでいるのはその超絶スキルをSEEDAからも絶賛されたJinmenusagiであろうと思われます。

また、この時期のSEEDAバイリンガルラップの系譜にも連なっています。バイリンガルラップの定義は非常に曖昧かと思われますが、例えばその代表者にSHING02がいますし(彼は英語のみの曲と日本語のみの曲、という風にスタイルを分けていますが)、また、現在飛ぶ鳥を落とす勢いのKID FRESINOもその一人だと言えます。SHING02はクラシック『緑黄色人種』、KID FRESINOはFla$h BackSのメンバーでグループでは『FL$8KS』、ソロでは『Horseman's Sckeme』、名古屋SLUM RCのメンバーC.O.S.Aとのユニットでの『Somewhere』などの作品があります。現在ではバイリンガルラップという括りはほぼ無意味なものとなっていますが、2000年代初頭から半ばのこの時期、バイリンガルラップは大きな問題の一つでありました。なぜなら、日本人が日本語でラップをすることに、いまだ大きなコンプレックス、引け目を抱えており、日本語ラップというジャンルのアイデンティティが確立していない時期であったからです。英語でラップをすると、「日本語」ラップのアイデンティティが失われるのではないか、という危惧があったのです。例えば、K DUB SHINEの「JAPANESE HIPHOPじゃねえのかよ」、「英語ばっか使う無国籍ラップ 日本語に心動くべきだ」(キングギドラ公開処刑」)というラインがバイリンガル批判の代表でしょう。そんな中、バイリンガルスタイルを選択したSEEDAの狙いは、おそらくのちの「日本語ラップぶっちゃけ興味もないわ」という一節に示されているように、日本を超えて世界へ、という大きな野望に裏付けられていたと思われます。実際にSEEDAは、世界で戦いたい、という望みを強く持っていることをインタビューでたびたび打ち明けていますし、英語のみで歌われた楽曲もあります。

また、この作品は高速フロウの系譜、バイリンガルラップの系譜に加え、ハスリングラップの系譜にも連なります。ハスリングラップとは、ハスラーのラップです。ハスラーとは、ここでは主にドラッグディーラ―のことを指します。アメリカでは、ハスラーを経験したラッパーは数多くいます。NASJAY-Zはその代表格でしょう。また、HIPHOPの思想に多大なる影響を与えたマルコムXハスラーとして成り上がった一人です。このように、ハスラーはアメリカのHIPHOPと切っても切り離せないものなのですが、日本でハスラーの経験があるラッパーが登場したということだけでも、大きな驚きでした。不良系のラップの親元と言ってよいZeebraは、チーマー、ヤンキーというきわめて純日本的な文化を刺激したとはいえ、ハスラーとそれらの層は似て非なるものです。不良が日本のガラパゴスな文化だとすれば、ハスラーHIPHOPそのものと密接な関係があります。ハスラーはただ不良よりも違法性が高く、本物の悪だから良いというのではもちろんありません。ハスラーであることが一つの特権性となるのには、いくつかの理由があるかと思われますが、ハスラーは貧困と成り上がりの物語を通じて、資本主義の核心に触れているということが挙げられると思われます。そこから、ハスリングラップに特有のリリックにおける特徴が浮かび上がってきます。その特徴を挙げておきたいと思います。彼らは麻薬、欲望、金、嘘といったものの近くにいることができる/いなければなりません。そして、それらは全てハスリングラップにおいて、非常によく似た運動を見せます。その運動は、いくつかのハスリングラップに特有の主題や構造を見れば証明されると思います。暴走と反転という二つの運動が最も大きなものではないでしょうか。金が暴走すること、人間関係が暴走すること、薬物中毒が暴走すること、などです。交換という手続きを踏み飛ばした収奪による一攫千金、コミュニケーションの破綻や不可能性に突き動かされた殺人、身体と精神の破綻としてのオーヴァードーズです。また、反転とは、買い手が売り手に、売人が中毒者に、仲間が敵に、といったもので、「明日は我が身」「勘繰り」といった言葉に集約されると思います。また、ハスリングラップの先駆として2002年THA BLUE HERB「路上」があり、そこでは「人違い」という言葉で「反転」と私が呼ぶものが表現されており、ハスラーの物語がフィクションとして神話的な暗示、因果を交えて語られています。この曲で歌われた、しがないハスラーの生活は、SEEDAの内省的なハスラーラップと評されるスタイルに直接の影響があるのかもしれません。また、妄走族「まむし―CHOICE THE GAME― feat. D.O」はドラッグディールの話ではありませんが、「路上」と似た面を持った曲であると言えます。ちなみに、ハスリングラップの担い手は他にMSC、D.Oなどがその筆頭に挙げられます。D.Oは「悪党の詩」「I'm Back」などの代表曲があります。

 以上のように『Green』は、高速フロウ、バイリンガルラップ、ハスリングラップという、それぞれ技術的、言語・文化的、経済・社会的な系譜のそれぞれ最先端に位置付けることができるでしょう。そのためきわめて重要な作品ではあります。しかし実はこのアルバムは、傑作であるということはできません。言ってしまえば、若く青臭い作品という印象を、後のアルバムと比較した場合、与えてしまうことは否めないのです。USのラップを多く聞いてきて、英語も自在に使え、ハスラーをやってきたという、ラッパーとしての準備は万全であった彼はしかし、それをいまだ上手く形に落とし込むことに成功しているとは言えないのです。高速フロウは、世界という大きな舞台を見据えて生き急ぐ彼の焦りと似ているように思えても来ます。むろん、全編通して聞くべきであり、聞かねばならない名盤の一つです。「Back In Da Days ft.ESSENCIAL」「LIFE feat. L-VOKAL」など多くの傑作があります。しかし、やはりこれは失敗作、素晴らしき失敗作であることには間違いなく、それを証拠立てているのが「Path feat. MANNY of SCARS&BES of SWANKY SWIPE」です。ここでもSEEDAは相変わらず、高速で、エモい(エモーショナルな。今はあまり使われませんが、よく使われた言葉です)、バイリンガル風のラップで、ハスラーの心情を繊細に描いています。しかし、何といっても客演で参加しているBESと比較してみるとSEEDAの現時点での敗北が明らかなのです。SEEDAのラップを聞く限りでは、この曲のビートの上でラップがきわめて駆け足で、焦りながらさまよっているという印象を受けます。言葉を多く詰め込むSEEDAのフロウは、確かにビートへの繊細な、微視的な耳を要するのかもしれませんが、ビートを捉える、ビートをラップで制御する、というようなことはいまだできていないのです。反対にBESはただの一言目で、SEEDAがつかみ損ねたこのビートを完全に我が物にしてしまっています。聞いてみてください。「結局 MONEY,PAIN切れないチェーン」とBESは歌い始めます。BESのフロウとしか言い表せないあのフロウで、余裕たっぷりに、第一行目で、ビートとラップが完璧な仕方で結びついています。さらに言えば「結局」の一語を聞いた時点で、BESのヴァースの成否は決定されたと言っても過言ではないと思います。その後、三度繰り返されるこのラインが、歌詞の中にある種々のイメージと密接に連鎖しながら、日本語ラップ史上最高に美しく、圧倒的なヴァースを歌い上げることについては、ここでは語り切れません。正直に言って、私はこの曲から、無残なまでにSEEDAが敗北している、という印象を受けました。この作品はSEEDAに、前作『ILLVIBES』から続く早口のスタイルが限界に来たことをSEEDAに教えたのではないでしょうか。この時のフロウは当時の日本語ラップにとって一つの衝撃であったろうこと、あるいは衝撃を与えられると信じた若きSEEDAの志は理解できます。しかし、それでは足りないのです。BESのあの見事な、完璧な、余裕たっぷりの、あの美しいヴァースを聞けばそれが分かるのではないでしょうか。しかし、とにかくこの作品はあまりに偉大な失敗作であるのです。そのことは次作が証明しています。

 BESのことも紹介しておきます。これから何度も名前が出てきます。SEEDAが所属するグループ、SCARSのメンバーで、またSWANKY SWIPEというグループも結成しています。日本でラップスキルのランキングを作るとしたら、おそらくSEEDAと一位の座を争うことになるのは、BESということになるかと思われます。彼は疑いもなく天才で、誰にもまねできない、どのようにして開発されたのかまったく分からない奇跡のフロウの持ち主で、並外れたリズム感を持っていて、リリックも非常に高度です。ここまで説明したなら、すでにお気づきのことと思いますが、SCARSには日本で最もラップの上手いラッパーが二人もいるのです。恐ろしいですね(もちろん、他のSCARSのメンバーもみな素晴らしいですが、ここでは紹介できません)。BESの代表的な作品はBES from SWANKY SWIPE『REBUILD』、SWANKY SWIPE『BUNKS MARMARED』で、この二枚のアルバムは大傑作なのですべて聞いていなければなりません。曲単位で言えば、「HOW HOW HIGH feat. メシアThe Fly」「The Process」「かんぐり大作戦」「JOINT feat. メシアThe Fly」「評決のとき」などは歴史に残る名曲で、有名な曲なので聞いていなければなりません。

 

SCARS 『THE ALBUM』 2006年

SCARSは、リーダーA-THUGを中心に、SEEDA、BES、STICKY、MANNY、林鷹(GANGSTA TAKA)、BAY4Kというラッパーたち、またビートメイカーにI-DeA、SACが所属するグループです。彼らは神奈川県川崎市を拠点とするハスリンググループを基にして結成されました。SCARSは日本語ラップにおける大所帯クルーの系譜に位置します。日本においてHIPHOPクルーという意味ではじめに位置するのは雷家族、その弟分とも言うべきNITRO MICROPHONE UNDERGROUND、さらに78年組を代表するものと言えば般若が所属していた妄走族、MC漢が率いるMSC、厳密にクルーとは言えませんがD.Oの練マザファッカー(ちなみにSCARSのBAY4Kはこちらに属していました)があります。また、SCARSと同世代で、SCARSとの盟友関係にあると言ってもよい、NORIKIYOが率いるSD JUNKSTAもあります。他にも田我流などのstillichimiya、OMSBなどのSIMI LABなどがおり、現在シーンを賑わしているBAD HOP、YENTOWN、KANDY TOWNなどにそれは引き継がれています。

 さて、このアルバムは日本語ラップの歴史上、最も優れた作品です。傑作中の傑作であり、絶対に聞くべきで、聞いていないことは許されない、と言いたいところですが、なんと、この大傑作が現在、廃盤状態なのです。むろん、iTUNESにも入っていません。中古で探すしかないようです。本当に日本語ラップ史上最高傑作だと言っても過言ではない、紛れもない超名盤なのですが、こんな作品が廃盤であるとは、日本語ラップにとって実に悲しむべきことなのです。いくつかの楽曲は幸いなことに今動画サイトに上がっているようなので、そちらを是非とも聞いておくべきです。

このアルバムは、日本語ラップシーンに、スキル、リリック、リアルなどの面で大きな衝撃を与えました。ハスラーの個人的な事柄を率直に、かつ独自の言語的センスで歌うことは、リアルと言うことを考えるうえで重要な革新でありました。おおざっぱにまとめますが、彼らの上の世代、さんピン世代のトポスが「現場」という言葉に代表されるとすれば、SCARSらにとって重要なトポスは「ストリート」である、と言えそうです。ストリートのリアルということでは、さんピン世代のZeebraは「俺は東京生まれ HIPHOP育ち 悪そうな奴は大体友達/悪そうな奴と大体同じ 裏の道歩き見てきたこの街」という有名なパンチラインを残しています。しかし「裏の道」を知っていることを歌いますが、その裏の道がどのようなものであるのか、それを歌ってはいません。リアルである、ということを歌えど、リアルを生きることはなかったと言えるのではないでしょうか(もちろんそれが悪いとは言いませんし、Zeebraがリアルでないとも言っていません)。ちなみに「リアル」についてSCARSのほかに重要なのはMC漢及びMSCでした。ベストセラーとなった漢の自伝『ヒップホップ・ドリーム』の中に書かれている、リアルを守るための有言実行ルールは大きな話題となりました。

ラップ自体について言えば、SEEDAは『Green』から各段の進歩を遂げています。これまでのファストフロウは、ともすれば単調なものであったと言えるかと思いますが、ここでは、ビートへの完璧なアプローチと、かつ多彩で独創的なフロウの数々が披露されています。SEEDAが真にSEEDAとなった、と言えるでしょう。

 また、言うまでもなくこのアルバムはSEEDAだけではなく、メンバー全員のラップが素晴らしく、スキルでぶっちぎるもの、リアルを描くもの、規格外のパンチラインを放つもの、狡猾な悪を演じるもの、苦しみを吐露するもの、仲間について歌うものなど多様であります。

 ちなみに、以下に張り付けた対談では、当時の日本語ラップにどれほどSCARSが衝撃を与えたのかが、リアルタイムでそれを体験した人物によって語られていて、とても勉強になると思います。

第17回 ─ シーンの風向きを変えたワルいやつら~SCARS『THE ALBUM』 - TOWER RECORDS ONLINE

 

『花と雨』 2006年

SEEDA出世作であり、誰もが認めるクラシックアルバムとして認知されています。日本語ラップヘッズは全員「花と雨」の歌詞を暗記しています。そして日本語ラップヘズならばライブでこの曲のイントロが流れた瞬間に突っ立ってはいられなくなります。まさに名曲中の名曲で、おそらく日本語ラップクラシック曲ベスト5を作ったとしたら、確実にランクインするだろうと思われます。「花と雨」について、私は『ユリイカ 特集*日本語ラップ』に寄稿した「ライマーズ・ディライト」という文章の中で書きましたのでここでは触れません。ただ、リリックの表面における言葉の運動が奇跡を起こした、ということだけを言っておきます。この曲で起きていることは奇跡だと私は思っています。この曲の最も有名なパンチラインは「長くつぼんだ彼岸花が咲き空が代わりに涙流した日 2002年9月3日俺にとってはまだ昨日のようだ」です。とても感動的かつリリカルで、日本語ラップ史上に残るとてもとても有名な歌詞です。

表題作以外にも聞いていなければならない曲がたくさんあります。「不定職者」、「Sai bai man feat. OKI」はともにSEEDAのライブでも定番の曲で、この曲も誰もが知っています。「不定職者」は、ハスラーの生き様をユーモラスに描いた傑作です。「不定職者」という言葉には、ハスラーを悪自慢としてではなく、自己相対化して見つめる、というSEEDAに特有のスタンスが現れています。「Sai bai man feat. OKI」は栽培の歌です。何を栽培するのかと言えば大麻の栽培で、ガーデニングの歌ではありません。ストリートで生きる彼だからこそ書けるリリックで、イリーガルな話題をユーモラスに、かつ細部に渡って描き切っています。「学がなきゃ無理さURBAN FARMER」と歌うように、「ホルモンバランス」を保ち、はさみで汚れた葉っぱを切り落とすといったことなどを歌っています。また、「おっと服に枝が付いてる」というラインは、後にまた登場するのですが、とても有名です。

また、一曲目に収録されている「ADRENALINE」も完璧な一曲で、「UNDERGROUND OVERGROUND誰もが ラッパーSEEDA否定した頃から/クローゼットブースの中から吐いた言霊 FUCK世の中BUT FUCK SEEDA」という歌いだしの鮮烈さにまず驚きます。前作の失敗を踏まえ、いまだ「世の中」への苛立ちを抱きながら、しかし、ビートへのアプローチとリリックの一語一語に磨きをかけたことなど、すべてをこの一節が物語っています。

続く二曲目の「TOKYO」では、ビートのすべての音を聞いているかのように、ビートとラップが完全な結合を見せながら、東京のストリートを描写しています。特に「BMの覆面近所を回るもママチャリのババア昼間すれ違う/無人交番ゲリラするライター 道路脇ただ置かれた花束」という一節は数ある日本語ラップのストリート描写の中でも屈指の出来だと思います。視点変換、運動と静止など語りの面で非常に高度な技術を用いつつ、ストリートの表と裏を描写しきっています。他には「目に映るもの全てを詩に落としたら誰もここじゃ生きれないだろ」「尊敬できるヤクザに会えばワルとカタギの違い分かるはずだ/尊敬できるラッパーに会えば自ずとHIPHOPが分かるはずさ」などのパンチラインはとても有名です。

ちなみに、描写ということはリアルと深い関係があります。そもそもラップで描写を行うことは非常に難しいであろうと思われますし、稀なことでもあります。描写を行う数少ないアーティストがSEEDAであると言えます。描写を行うアーティストにはTHA BLUE HERBもいますが、特にリリックの面でSEEDAに多大な影響を与えたと言えます。BOSSとSEEDAは描写と隠喩をリリックにおいて行う数少ないアーティストですが、思うに、描写と詩的な意味での隠喩(意味に還元されないイメージの閃き)はラップのリリックに希少なもので、ラップにおいてこの二つの間には大きな関係があるのではないでしょうか。隠喩の話は置いて、他に描写を行うアーティストには、MC漢がいると思われます。例えば、「クルーの麻暴が手にした道具は空のビール瓶 何にも知らずに笑顔でやってきたイラン人の額めがけてタイミングよく振る渾身のフルスイング」(「新宿アンダーグラウンド・エリア」)という有名なパンチラインがありますが、これもラップに数少ない描写で、生々しく過激な光景を描いています。他には般若「理由」の冒頭、「三日月が傾く 風が荒ぶる 電信柱の影だけ長く/破れた袋が地面を跨ぐ 寝れねえカラスが歌ってやがる」という一節は描写と押韻が組み合わされたきわめて完成度の高いラインです。最近の例で言えば、「今夜俺は歩いて帰れるだけの酒を飲み 潰れたFriendsを跨いで振り返る/片側だけライトが灯るクラブの明け方のノリを遠くから眺める」(C.O.S.A×KID FRESINO「LOVE」)という最近有名になった一節は上の例と多少異なりますが、語り手の身振りを交えながらある情景を描いているという点でこれらの系譜に位置付けることが出来ると思われます。そもそも、ラップという表現形式においてはほとんどの言葉は、散文で言う地の文とはなりがたいということにこの問題の根っこがあると思いますが、ここも研究を要するところでしょう。

また、他に聞いてほしいのは「ILL WHEELS feat. BES」です。二人が日本で最もラップの上手い人だということはすでに述べました。その二人がスキルを存分に見せつけながら、ワックMCへのディスを次々と放っていきます。「リリックの中二度生きるラッパー 言葉の壁は高いがフロウはその上を超すことは可能さ」というSEEDAパンチラインも有名です。BESの「千鳥足でも読めるフロウとライミング」、「ビーツとライムが水と油」という歌詞は、とても洒落たディスのセンスで素晴らしいですし、また、ビートとラップの乖離をディスするということから、反対にSEEDAやBESがいかにビートに対するアプローチの点にいかにこだわっているかが分かります。また、この曲の終盤に行われる二人の掛け合いは圧巻です。矢継ぎ早に、日本屈指の二人のラッパーがスイッチを繰り返しながら、一息に言葉を吐き出し、最後に彼ら二人こそが「真のフロウ巧者」なのだと言い切る瞬間には、なんともいえない快感が襲います。「どうのこうの言ったってしょうがない 結局ラップが上手すぎてしょうがない」。本当にしょうがないくらいにラップが上手すぎるのです。

ちなみに、ワックMCをディスする曲の系譜は膨大なものがあります。キングギドラ「大掃除」をはじめ、ほとんどのラッパーがといってよいほどこの手の曲を出しており、枚挙にいとまがありません。おそらく、シーンの中心に躍り出るために、ワックMCディス曲が要請されるのではないでしょうか。他人をディスすることと、自らの価値を主張することは表裏一体だからです。比較的最近の例を挙げておけばKOHH「FUCK SWAG」、「Life Style」のT-PABLOWのパンチライン「お前らのHIPHOPは習い事 HIPHOPってのは人生だから一緒にすんなよまがいもの」というものが代表的でしょうか。 

ここで、前作『Green』との決定的な違いを説明しておきましょう。よく言われるのは、前作は速すぎて上手く言葉が聞き取れず、『花と雨』は日本語がとてもよく聞こえる、というものです。しかし、速度はまったく表面的なものでしかないと思います。重要なのはラップの質自体の、劇的な向上だと思います。上でリンクを貼った、「 サ イ プ レ ス 上 野 の LEGEND オブ 日 本 語 ラップ 伝 説」の別の回、第19回NORIKIYO『EXIT』の回では次のようなやり取りがあります。

 

上野「で、トラックもらって、ラップ乗せてミックスして……みたいな流れで全部作っちゃってる人は多いじゃないですか。ラップとビートが水と油みたいに分離したままのアルバムなんてめちゃくちゃあると思うし。でもキー君はそうじゃない」

ブロンクス「そこがキー君とかSEEDA君の世代がエポックメイキングだった理由なんじゃないかと思うよ。これはSEEDA君が言ってたんだけど、まずトラックを聴いて、足りない音程をラップで埋めると」

上野「おお~……すげえなあ。昔だと、〈歌詞先〉とか普通にあったと思うんですよ。でも、いまはあらかじめ曲を聴いて〈これだったらこういう感じがハマるなあ〉って作っていく。そうしないと全部書き直しになっちゃいますからね。だから、いまもMIC大将とかが、俺とやる予定の曲を勝手に自分のなかでビートを決めて考えてるらしくて〈大丈夫なのか?〉って思うんですけど(笑)」

第19回 ─ 悪運の尽きたリリシストのスタート地点~NORIKIYO『EXIT』(2) - TOWER RECORDS ONLINE

 

 

素晴らしい証言を残してくれたものです。何と素敵な話なのでしょうか。トラックに「足りない音程をラップで埋める」。トラックがまず先にあり、ラップは後に来るのです。歌うことよりもまず聞くことが先にあるのです。本当に衝撃的ですし、美しい話です。実際にSEEDAのラップを聞いてみれば、この言葉が嘘ではないことが分かるはずです。『Green』において欠けていたのはこの点なのではないでしょうか。つまり、自らの言葉を物凄い速度で吐き出していくのではなく、まずはビートがはじめにあるのです。それは「心に書き留めたフリースタイル」(「MIC STORY」、後に紹介します)の絶対性を放棄し、ビートという他者に、世界に、自己を開くという行為だと言えるのではないでしょうか。そして、この試みが見事に成功したのが『花と雨』であると言えます。

 

『街風』 2007年

傑作『花と雨』に続くこの作品は、SEEDAのアルバム中最も売れた作品であったようです。SEEDAはレコーディングの制作方法に大きな不満を持っていたようで、このアルバムを気に入っていないと言ったりしていましたが、SEEDAが何と言おうと良いアルバムであることには違いありません。何といってもこのアルバムは客演陣が豪華です。アルバムとして見れば、前作に比べてまとまりを欠いていますが、曲単位では素晴らしいものがたくさん詰まっています。

THA BLUE HERBのILL-BOSTINO(Tha BOSS)を招いた「MIC STORY」は有名な曲です。ブルーハーブは、東京中心主義であった日本語ラップ界に、北海道から独力で立ち向かい、地方をレペゼンすることの大切さを教えてくれた素晴らしいアーティストです。THA BLUE HERBの『 STILLING, STILL, DREAMING』というファーストアルバムは、クラシックだと認められており、とても評価の高いアルバムです。歌詞の多くが抽象的ですが高度で、日本語ラップの歌詞のレベルを引き上げたと言えるのではないでしょうか。また、この作品によって、さんピンCAMP組のラッパーから次の世代、地方レペゼンを旨としていた「78年式」のラッパーたち、またとても豊かであった2000年代初頭のアンダーグラウンドシーンなど、新たな時代が切り開かれました。

 この「MIC STORY」という曲はマイク一本で生きていくラッパーの覚悟を、先輩と若手がそれぞれ歌う、という構造になっています。ストリートを突っ走って生きてきたSEEDAはこれまで、ハスラーの経験を歌ってきましたが、自分はこの後どうすればよいのかと、街の真ん中に立ち止まって悩んでしまいます。「街中がHUSTLIN' ALL DAY 気付けば一人待ちぼうけ」。金を稼がねばと焦り、早くラップスターになろうと野心を燃やすSEEDAに対して、ILL-BOSTINOは「上がりっぱなじゃ生きてはいけねえ」、「恐れを知らないあのどん底から俺は家康さながら生き残った」と、しぶとく生きることを教えます。そしてSEEDAは徐々に何かを悟りだします。「光を知らない石ころは光を知って己を知る」「足蹴にのけ者ヘイター全てはありがとうここまで来れたから」といった素晴らしいパンチラインを残しています。ちなみに、この曲でBOSSは「その仕事俺にくれ あれから何年」と歌っていますが、おそらくこれは自身の「ILL BEATNIK」という曲の一節を意識してもいるでしょう。1999年に発売されたアルバムで絶大な評価を得た彼らは、2000年、ヒップホップアーティストとしては珍しく、FUJI ROCK FESTIVALに出演します。そこでこの「ILL BEATNIK」のライブをしたのですが、このライブは伝説とされており、圧倒的なパフォーマンスで観客を完全にロックしています。この映像は現在も動画サイトで見れます。

また、客演陣の中で一際目を引くのはKREVAです。ストリートの不良でアングラな存在であったSEEDAと、すでに紅白歌合戦に出場し、オリコン一位を取っているメジャーなアーティストであるKREVAが共演したからです。その曲が「TECHNIC」です。この曲もとても有名で、傑作だと認知されています。KREVA製の素晴らしいビート上で、アンダー/オーバーの垣根を超え、二人の屈指のスキルを持つラッパーが格好いいラップをかましています。SEEDAは「正規で300 自主で5000って何」と、現状の音楽業界に対する不信を表明するパンチラインを残しており、インディペンデントに自らの音楽で金を稼ぐというライフスタイルを体現します(このアルバムはメジャーから出ているのですが)。この姿勢は日本語ラップに与えたSEEDAの大きな影響の一つではないでしょうか。ちなみに、日本語ラップバブルがはじけた後のこの時期、多くのラッパーがメジャーの幻想を捨てた時期だったのではないでしょうか。二枚のアルバムをポニーキャニオンから出した般若は後に「ポニキャに彩ちゃん 居ると思ったら居ねーよ あらま」(「履歴書」)と自虐的に歌っていますし、OZROSAURUSのMACCHOもポニーキャニオンでのアルバム制作時に歌詞の規制が厳しかったことに激しく怒り「言葉の羽もぐメジャーよりインディーズ」(「SANDER」)、「045styleからAREA AREA ROLLIN'じゃ小銭さ俺の手には/メジャーって何だかいけすかねーな それとも仲間が搾取?Blah」(「PROFLILE」)とディスをしていますし、「勘繰るぐれえならハマに帰ろう」(同前)とインディーズに移行しました。「TECHNIC」に話を戻しますが、何といってもKREVAのラップがキレキレで、珍しく本気のKREVAが見れる曲の一つです。二人はそれぞれの立場から「東京の流れ」を見つめ、その目まぐるしさよりも速くラップをし、「振り返らず」に「人生のTRACK」をラップで疾走します。また、補足しておけば、この曲のKREVAのヴァースは、OZROZAURUSのMACCHOから受けたディス(「DISRESPECT 4 U」)へのアンサーにもなっています。「ロナウジーニョばりノールック 音が口を塞いでまた静かに報復」という、KREVAらしい比喩のセンスと、いつものKREVAらしくない抽象的な表現が混じり合ったパンチラインはとても有名です。ちなみに、OZROZAURUSは横浜をレペゼンするグループで、ハマの大怪獣として君臨し、日本中に「045」ナンバーを知らしめました。名曲中の名曲「AREA AREA」をはじめ、「ROLLIN' 045」「Hey Girl feat. CORN HEAD」「My Dear Son」「Juice」「証拠」などの曲があります。

他にも四街道ネイチャーを招いた「ガリガリBOYS」、D.O客演の「NO PAIN, NO GAIN」、アメリカの有名ラッパーSMIF-N-WESSUNを招いた「LOVE&HATE」、仙人掌とストリート描写の妙を見せる「山手通り」、音楽のすばらしさを美しいトラックに乗せて歌った「MUSIC」、「不定職者」のリミックスである「また不定職者 feat. BES, 漢」など、傑作がたくさん収録されています。豪華な客演陣と、SEEDAの出会いによって楽しめる一枚であることには間違いがありません。

 

『HEAVEN』 2008年

『街風』の次に発表されたこのアルバムは、大傑作『花と雨』と同等、あるいはそれ以上との評価を得ているクラシックアルバムです。シーンへの衝撃、と言う点では『花と雨』に劣るかもしれませんが、完成度で見るならばこのアルバムは負けていません。ビートメイカーに、BACH LOGICとI-DeAという世界レベルの二人を招き、その素晴らしいビートの上で、進化したSEEDAのラップを聞かせてくれます。

「自由の詩 feat. A-THUG」は、これまでの自らの評価、張られたレッテルから逃れようとする意志に満ち溢れており、SCARSのリーダーA-THUGと完璧なコンビネーションを見せています。いつも通りのラップスキルを見せつけていますが、「目の前の俺をよく見てくれ天才などでも何でもねえ/BACH LOGIC I-D Green 花と雨 一言だけ詩(うた、引用者)は俺のままだぜ」と、ファンの望むSEEDA像に囚われないことを宣言しています。同時にストリートからの脱出も目指していて「借金足枷 can't get out ダチが皆ハスラーならcan't get out」と歌っています。また、A-THUGも良いヴァースを蹴っており、「冷めない内に飲んどけスープ 冷めない内にやっとけラップ」「万券貯めて千円使いな/九時から六時でも金を稼ぎな」といった(意味不明で?)強烈なパンチラインを残しています。この曲は「ILL WHEELS」同様、最後のヴァースでの二人の見事な掛け合いが見どころの一つで、SEEDAが最後に吐き捨てる「oh shit we get that 人に使われると反吐が出んだBlah!」というラインは最高に格好いいです。

このアルバム中、最も人を驚かせるのは「Homeboy Dopeboy」でしょう。ビートは非常にイレギュラーで、乗せるのが難しいはずなのですが、SEEDAはこのビートを完全に乗りこなし、鋭いラップとリリックを披露し、聞く人を戦慄させます。二分ほどの短い曲ですが、SEEDAお得意の早口に、聞きやすさが加わり、素晴らしい歌詞を歌っている素晴らしい一曲です。歌っている内容もきわめて高度で、麻薬、金、欲望といったものの危うさがその内容です。「やれば嫌いなやつはいない だって俺もお前も人間だろ」。ドラッグ、性、金といったテーマが複雑に絡み合いながら、鋭いラップが披露されています。その中でも面白いのは「電車は無理だよ鼻水でるもん 仕事中鼻血じゃただのエロ」というラインで、解説しておけば、鼻から吸入する薬物をやってしまうと、粘膜が傷つき、鼻水や鼻血が出やすくなりますが、それにはまってしまったため、電車など公共の場所に行くことができなくなり、仕事をしに職場に行くと鼻血が頻繁に出てしまい、周りの人からは「エロ」だとからかわれる、という情景が、抜群のタイミングで挿入されています。一行で、このような情景をありありと、かつユーモラスに描いてしまうあたり、SEEDAの言葉の使い方の上手さが分かりますね。

リリックのすばらしさといえば、「SON GOTTA SEE TOMORROW」です。第一ヴァースでは売人を今日でやめる男、第二ヴァースでは上京し、東京で苦しみながら生きる女性を、それぞれの人物に寄り添って語っています。特に視点移動、時制の感覚が天才的で、昨日と明日、前と後ろといったものを語りの形式において移動しながら語ったり、東京で闇に近づく若い女性の心情を「タトゥーより深く落ちた街の影」と比喩と描写によって表現する際の歌詞の構成などはまさにリリシストとしか言い表せません。ちなみに、この曲のMV(前まで動画サイトにアップされていましたが、現在削除されているようです)に、警察官役でNORIKIYOが出演しています。ちなみに、楽曲内の語り手と、歌い手であるラッパーがおそらく同一人物でなく、かつ複数人の語り手が登場するという形式を取る楽曲の系譜がいくつかあるのでそれを紹介しておきましょう。Zeebra「I’m Still NO.1」、RHYMESTER「グッド・オールド・デイズ」、般若「やっちゃった」「FLY」、田我流「ハッピーライフ f/ QN, OMSB, MARIA of SIMI LAB」などがあり、最近ではCREEPY NUTS「みんなちがって、みんないい」が話題となりました。

また以上に紹介した楽曲の他にも『HEAVEN』には、日常を生きる苦しさを細々と描いた末、空に向かって「くそったれ」と叫ぶ呼吸の妙を見せる「空」、別れた女性の面影を煙のはかなさと重ねた「Mary Mary」などがあり、全ての楽曲が傑作である、完璧な一枚です。

 

TERIYAKI BEEF

ここで一度アルバムから離れてみましょう。2009年、VERBAL、RYO-ZILMARI、WIZE、NIGOがメンバーであるTERIYAKI BOYZのアルバム『SERIOUS JAPANESE』収録の表題作が問題を引き起こしました。フックの「おっと服に猿が付いてる」という部分、「気にせずサクサク仕事こなすハスラー 気になってるくせにコソコソ言ってる奴ら/君らみたいなのをヘイターと呼びます」というVERBALのライン、そして声が小さくて何と言っているのか判別できないアウトロ部分が、その原因でありました。つまり、「おっと服に猿が付いてる」というのは、メンバーのNIGOのファッションブランド、「ア・バッシング・エイプ」のことを指していますが、このラインは明らかに、すでに紹介しました「Sai Bai Man」の「おっと服に枝が付いてる」という歌詞を意識しており、またVERBALの歌詞は、ハスリングラップの代表者であるSEEDAを想起させてもおかしくありません。それに加えて彼らが、アウトロで「コソコソ」と言っていることを加えると、SEEDA及びOKIがこの「SERIOUS JAPANESE」を、彼らへのディスであると受け取っても不思議ではないのでした。

 そこで二人はYOUTUBE上に「TERIYAKI BEEF」という楽曲を発表し、TERIYAKI BOYZをディスしました。とても面白く、痛烈な曲でディスソングの歴史に名を連ねる有名な曲です。ちなみにこの曲で、OKIが「聞けるのはONLY カニエヴァース」と歌っていますが、これはTERIYAKI BOYZの「I STILL LOVE H.E.R  feat. KANYE WEST」という曲を指しているだろうと思われます。カニエ・ウェストというのはアメリカの、世界的に有名なラッパーで、これまた世界で一番有名だと言えるラッパーのJay-Zの裏方をやっていた経験があり、また自らの作品もきわめて音楽的に優れたものです。つまり、OKIは、世界的なアーティストと共演して喜んでいるかもしれないが、誰と共演しようがお前らのラップはダメで、カニエしか聞くところがないのだ、とディスをしているわけです。また、SEEDAは「般若にディスられSEEDAディスっちゃう?自分の都合で相手をかえちゃう」とディスをしていますが、これは、般若というラッパーが、「エイプをレイプするSHOWCASE 俺HIPHOPだからそれ当然」(「理由」)、「NIGOの倉庫にみんなで行こう PHARELLがいたら殴っていよう」(TWIGY「BOMB ON HILLS」)などの歌詞で、NIGOをディスしていたことを意識した言葉です。般若は元「般若」というグループをフィメールラッパーのRUMI、DJ BAKUと組んでおり、後に三軒茶屋を拠点とした妄走族を結成したラッパーで、現在『フリースタイルダンジョン』のラスボスを務めています。代表曲には「やっちゃった」「最ッ低のMC」「サイン」「はいしんだ feat. SAMI-T」などがあります。

その後、VERBALは自身のラジオ番組でSEEDAと一対一の話し合いを開きましたが、ラップで会話したかったというSEEDAに対して、日本でビーフを行うことの是非を議題にしようとするVERBALの話し合いはすれ違うばかりで、フリースタイルセッションでも、はかばかしい返答をしないVERBALに対し、SEEDAは「残念だよ」と小さく呟いたのでした。

BLOG上でSEEDAはこの件の終息を告げました。ラジオでの対談を聞いた限りでは、一貫してフリースタイルで、ラップで、話をしようとするSEEDAの方が格好良かったという人が多かったはずで、SEEDAの萎えた姿はかわいそうでもありました。またこれもおそらく多くの人が同じ意見であると思いますが、この件では、楽曲としての「TERIYAKI BEEF」の完成度、動画の面白さ、またラジオでのフリースタイルの腕前、それらの元にあるラッパーとしての姿勢(言葉に責任を持つこと等)の点で、BEEFと呼ぶにはすれ違っていたかもしれませんが、とりあえずはSEEDA(とOKI)の勝利であると言ってよいと思われます。ちなみに、この後OKIは、自らが話し合いに呼ばれていないことを不服とし、「SHALL WE BEEF」という曲を発表しましたが、返答されませんでした。

この件で日本語ラップシーンは大きく盛り上がりました。そこで、日本での創刊号を発売しようとしていた『THE SOURCE MAGAZINE』が、SEEDAに照り焼きバーガーを食べている姿での表紙を依頼するも、SEEDAは権威ある憧れの雑誌の表紙でそのようなことをしたくない/出来ないと断ります。ちなみに『THE SOURCE』はアメリカの権威あるヒップホップ雑誌で、作品の評価に厳しいことで有名であり最高点「五本マイク」を取ることができた作品はわずかしかありません。ちなみに、この雑誌とラッパーのEMINEMは犬猿の仲でした。そのことを聞いたGUINESSはYOUTUBE上に「SEEDA is Fake」という楽曲を発表し、SEEDAへのディスを宣言します。GUINESSは、フリースタイルダンジョンでお馴染みの漢がリーダーを務める新宿のグループMSCの周辺におり(一時期は所属もしていたようである)、BESとも近しいラッパーです。彼のディスは、自ら引き起こしたビーフに端を発した依頼を断るとは「芋引き」であるというもので、責任を取らないのはフェイクだ、という主張でした。ディスの内容が説得的だとは言い難く、また、この動画の最後にショッピングモールで「五歳のSEEDA君」と受付に呼び出しをさせていることなど、格好いいか、HIPHOPであるか、という点で問題があったと言えます。SEEDAは、アンサーを発表し、GUINESSも返答、再びSEEDAがアンサーし、このビーフは決着しました。結果はと言えば、SEEDAの圧勝でした。二曲のアンサーソングは今もYOUTUBEで聞けるので、是非聞いてみるとよいと思います。圧倒的なラップスキルに加え、ディスのセンスが抜群で、どちらの曲もとても笑わせてくれます。

このTERIYAKI事件から見えてくるのは、SEEDAのラッパーとしての覚悟、アンサーの素早さとラッパーとして真摯な対応、暴力、権力に屈せずに音楽の力を信じることなどです。SEEDAは二つの一連のビーフで圧倒的な勝利をおさめて、評価を上げました。おそらく、日本語ラップのビーフ史上最も鮮やかな勝利だと言うことができるでしょう。つまり、SEEDAは楽曲制作だけでなく、BEEFでも最強なのでした。

 日本語ラップにおける有名なビーフを紹介しておきましょう。キングギドラK DUB SHINEと、BUDDHA BRANDDEV LARGEのビーフがあります。K DUBの「バトルは俺が完全に食った」(「来たぜ」)という歌詞にDEVが怒り、ディスを発表した、という経緯でした。ちなみに、K DUB SHINEの有名な曲は「ラストエンペラー」「渋谷のドン」「オレはオレ」「狂気の桜」「今なら」「ソンはしないから聞いときな」などがあります。また、DEV LARGEはソロでの作品は少ないですが、ソロの代表曲には「MUSIC」という曲があります。また、変名DJ BOBO JAMES名義でのコンピ『HARD TO THE CORE』には、入手困難であった幻の曲「暴言」(有名な「証言」に、MSC韻踏合組合のメンバーらが乗せた曲)が収録されており、DEV LARGEの偉大なる功績の一つです。キングギドラの有名な曲は「大掃除」「見まわそう」「未確認飛行物体」「公開処刑」「F.F.B」「平成維新」「UNSTOPPABLE」「アポカリプスナウ」があります。BUDDHA BRANDは「人間発電所」「Don't Test da Master」「天運我にあり(撃つ用意)」「FUNKY METHODIST」「ブッダの休日」「ILL伝承者」などの曲があり、キングギドラもこちらも、とてもとても有名です。

 他には漢とDABOのビーフがあります。リアルを信条としていた漢は、DABOがアルバムのジャケットで銃を持っていること、車の免許を持っていないのにMVで車の運転をしていることなどから、フェイクであるとディスをしました。それにDABOは応答し、数曲に渡って両者のビーフは続けられました。漢の盟友であり、またDABOともつながりのある般若の取り持ちによって仲は修復されたらしく、二人はタッグを組んでMCバトル(「AsONE -RAP TAG MATCH- 20151230」)に出場もしました。ちなみに、漢はMSC、DABOはNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDの中心メンバーです。MSCは「音信不通」「宿ノ斜塔」「新宿 RUNNING DOGS」「六丁目団地」などの曲が有名で、ストリートのリアルにこだわったスタイルでシーンに衝撃を与えました。NMUは「NITRO MICROPHONE UNDERGROUND」「STRAIGHT FROM THE UNDERGROUND」「STILL SHININ'」などの曲が有名で、格好いいマイクリレースタイルでシーンを席巻しました。漢の有名な曲には、「何食わぬ顔してるならず者」「漢流の極論」「I'm a ¥ Plant」「光と影の街」「スキミング」などがあり、特にファーストアルバム『導』は、インディーズながら一万枚以上を売り上げたという伝説があります。DABOの有名な曲は「レクサスグッチ」「拍手喝采」「おはようジパング」「デッパツ進行」などがあり、フロウの上で日本語ラップに影響を与え、また独特な歌詞も評価を得ています。

他にもビーフはたくさんありますが、日本語ラップ三大ビーフは、この二つにTERIYAKI BEEFを加えたものではないでしょうか。最近では、2016年には、漢とKNZZのビーフが起き、殴り合いにまで至り、その光景がネットで共有され、大きな話題となりました。

 

SEEDA』 2009年

前作『HEAVEN』は、ストリートから、過去の自分からの脱出を試み、一種の集大成と言ってよい内容と、出来でした。続くこのアルバムでは、ラップスタイルにおいて大きな変化が見られます。それまでのSEEDAのラップの最大の特徴は、ビートが刻むリズムに対して完璧で「これしかない!」と、完全な必然性に導かれていると言いたくなるような、しかし同時に独創的でSEEDAにしか出来ないようなアプロ―チを見せることでした。また、彼のラップの魅力の一つに、言葉の発声、あるいは息継ぎの繊細さがあり、それらが強拍を打ち付けるタイミングの絶妙さと相まって、きびきびとした、緊密な、素晴らしいラップを作り上げてきました。しかし、今回の作品では、ジャストオンビートでしかラップをしないという方針を取ったと言います。その制約は、ラップの天才で変幻自在のリズムを作り出せる彼にとっては、ラップを簡単なものにしたようで、気楽さを感じさせます。しかし、そこで生まれたのは、これまでになかったような、柔らかなフロウで、余裕のあるタイム感に裏付けられたラップの乗り方でした。

 例えば、前作の延長にあるような見事な高速ラップを披露している「GET THE JOB DONE」に対し、例えば「FASHION」という曲でのフロウは、これまでのSEEDAになかったもので、かつてのような緊密なラップではないですが、とても気持ちの良いリズムを刻んでいます。

ちなみに、「GET THE JOB DONE」では、「fast flow 倍速」の掛け声を合図にラップの速度が急激に上がり、得意の高速フロウを披露していますが、この手の曲は他にもあります。緩急自在ラップの系譜と名付ければよいでしょうか。DABO「レクサスグッチ」、KREVA「中盤戦 feat. MUMMY-D」、OZROZAURUS「LOCK STAR」、NORIKIYO&OJIBAH「そりゃ無いよ feat. RUMI」のOJIBAH、また最近ではKID NATHAN「意識ハ冴エテ feat. Jinmenusagi」のジメサギ、般若「スゲートコ」などがあります。

 客演が豪華な一曲「GOD BLESS YOU KID」でも、SEEDAの新たなフロウが聞けますし、そこでは「SEEDA! 俺がFUTURE?オールドスクールなお前は見たことない俺」と歌っています。本当に新たな一面を見せつけてくれます。

 また、触れなければならない有名な楽曲が二つあります。一つ目は「DEAR JAPAN」です。これまで、自身の経験、心情などを歌ってきたSEEDAですが、この曲では、政治について歌っているのです。「俺はぶれない FUCK あっそう」(これは当時の麻生総理大臣についてのダブルミーニングですね)、またアメリカ初めての黒人の統領が誕生した時期でもあったので(知らない人がたくさんいそうなので一応言いますがHIPHOPはブラックミュージックです)、「不景気がなんだYES WE CANだ オバマと団結し向かう明日」と無邪気な言葉をこぼしてもいます。彼の政治への関わり方についてはいろいろと議論があるかもしれません。が、ここでは、ラップスタイルの変化とともに、リリックのテーマも変化し始めている、ということを指摘するにとどめておきます。ちなみにこの曲の「クラブのビーフはラップより喧嘩 ラジオのビーフはラップより大人」という歌詞はそれぞれ先に紹介したGUINESS、VERBALのことが意識されています。

もう一つの曲が、「HELL'S KITCHEN feat.サイプレス上野」です。この曲は、このアルバムの中で最も有名な曲ですし、SEEDAの代表曲の一つでもあります。これは社会や経済について歌った曲です。「いかれたオタクがMURDUR 田舎のギャル漁るプラダ TV付ければ捏造ばっか放送作家マスかくドラマ」という時事問題に触れる歌いだしから始まって、「ドラえもん もう見ない 飯島愛 見ることもない」といった固有名詞の多用など、当時の社会を映し出そうという意図があるかと思われます。これらが楽曲としての完成度を損なうように働いていることは間違いありませんが、一曲の意図を説明してしまうような最後の「これは時代を詰め込んだ BACK PACK RAP FRASH BACK RAP」という一節は、見事に歌われています。

このアルバムを発表後、SEEDAは裏方に回りたい、とラッパー引退を表明するのですが、半年ほどで復帰をしました。どのような心境であったのかは分かりませんが、このアルバムはSEEDAの新たな一歩であったということを考えれば、やはりまだまだラッパーとしてやり残したことがたくさんあったのです。

 

『BREATH』 2010年

前作『SEEDA』で、ラップスタイルにおいて大きな変化があったと言いました。この『BREATH』は、前部で19曲収録された大作で、前作でのアプローチをそのまま突き進め、かつトピックについてもそれぞれに深めたような一作で、後期(?)SEEDAの中でも高い完成度を誇る作品です。もちろん、大きなスタイルの変化から、賛否両論はあったようです。実を言えば、私もいまだに前期のラップの方が好きです。しかし、前作から続く彼の挑戦は、特に現在、再評価が行われるべきだとも思います。

この作品は海外のトラックメイカーの力を借り、世界最新の音楽を目指した作品です。ワールドワイドに動くSEEDAですが、ラップの内容も、グローバル化が進んでいた当時の社会を強く意識した曲が多く、トピックも多岐にわたり、前作から続く社会、政治、経済についての曲は前作に比べると構成などの点で進化、あるいは深化が見られます。少年時代を過ごしたロンドンでの思い出をつづる「FLAT LINE」、タクシーでの移動の速度感に乗せて「好きな日本を探す」一曲である「TAXI DRIVER」、多感な思春期を過ごした90年代を振り返る「BIX 90's」、資本主義の中での競争、国同士の戦争、環境汚染など世界中を支配する「弱肉強食」に対して愛と平和を対置した「ALIAN ME」などの曲があります。

特にラップが冴えている曲は、スムースなラップが心地よい「SET ME FREE」、「考えないフロウはアート 考えて書くリリックスはハート」というパンチラインが印象的な「THIS IS HOW WE DO IT」、既述のように、90年代を固有名詞を多用して振り返りながら「黄金年代」であったHIPHOPについてたどり着くまでの第三ヴァースがとても美しい「BIX 90'S」、これまではハスラーとして眺めていたSCARSの本拠地川崎を、工業都市として描いた「影絵(川崎~太田) feat. Bay4K」などがあります。ちなみに、川崎は現在とても注目を集めている場所です。磯部涼氏が『サイゾー』で連載中の「ルポ 川崎」がとても勉強になります。川崎について歌われた曲を挙げておきます。SCARS「MY BLOCK」、BAD HOP「CHAIN GANG」、KOWICHI「REP MY CITY」、MEWTANT HOMOSAPIENCE「KAWASAKI RELAX feat. YOSE」、PRIMAL「川崎 Back In The Day feat. bay4k」。

また、このアルバムで最も有名な曲は「WISDOM feat. ILL BOSTINO, EMI MARIA」でしょう。「MIC STORY」で共演した二人のラッパーに加えR&BシンガーのEMI MARIAを加えたこの曲は、オリコンにもチャートインしました。ちなみに、この曲でBOSSは「フレッシュさはメッシ スコセッシのような実績/併せ持つビンテージ MY KNOW THE LEDGE」と歌っていますが、これはアメリカのラッパーERIC.B&RAKIMの「JUICE(Konw the Ledge)」という曲を意識しているでしょう。ラキムは、HIPHOPの歌詞、フロウなどに多大なる影響を与え、HIPHOPの全盛期の一つ「ゴールデンエイジ」を代表するラッパーです。また、これも余談ですが、この「WISDOM」ののち、2012年にSEEDAとEMI MARIAは結婚することになります。

 

『23edge』 2012年

『BREATH』に続いて、メジャーレーベルであるEMIから出した『瞬間in the moment』発売後、わずか五か月ほどで発表されたのがこの作品。前作が多くの人に向けて開かれた、大まかにいえばメジャー向けの作品であったとすれば、今作は、そのような普遍性を保持しながら、よりラッパーSEEDAとしての側面が強い作品だと言えます。ハスラーとしてのきわめて個人的な感情、生活、光景などを歌ってきた前期、ストリートを抜け出し、社会や政治へと目を向けたあと、この作品でSEEDAは郊外での平凡な生活にたどり着いたのだと言うことができるかもしれません。ゲットマネーをこれまで歌ってきたSEEDAの、微妙だが重要な金銭感覚の変化が見られる曲として「小金持ち」、東京のリアルを描いた「TOKYO KIDS feat. BIG-T」、ここ数作で続いていた平和主義の標榜の系譜にあって「エジプトのピラミッド建てた頃から」など、そこに時間、歴史についての思考を付け加えて深みを出した名曲「LIVIN'」などが並んでいます。

 特に素晴らしいのはまず、一曲目の「BURBS」で、郊外の平凡な生活を滑らかなフロウで歌い上げるこの曲は、明確に「It ain't bout cash」「it ain't bout crazy」と、と歌われていますが、金や狂気(をもたらすものとしての麻薬や性)はかつてのSEEDAの中心的な主題でしたので、スタイルの変化がとてもよく表れた象徴的な一節だと思います。ハスラーの目まぐるしいスピードから一転、「ゆっくり時間が過ぎていく」様を、フロウで十分に表現しています。ここで明確になったのは〈ストリート〉から、彼が〈ロード〉を歌うようになったということでもあります。これまでも「山手通り feat.仙人掌」「道(23区) feat.MC漢」などの曲がありましたが、ここでの新境地は郊外に抜ける道路を、「追い越し車線」を使わずにゆっくりとドライブしてゆくような感覚だと言えばよいでしょうか。この「BURBS」では、国道「16号」「4号」「254号」線が出てきます。これは、東京の音楽、ということを模索したというSEEDAの試みの一つでしょう。

次に紹介したい曲は「PURPLE SKY」です。これは有名な曲です。「警察の親も息子も今日はsmoke together」「普段嫌いなあいつとも今日はsmoke together」と優しく歌います。「smoke」することで、かつては憎むべき敵であった警察とさえ、またアメリカの人々とさえ、煙を媒介にしてつながろうと呼びかける歌です。「みんなロボットに変わっても温かい心が俺には少しは必要/時計の針が壊れてくリズラ巻き戻そうとしても燃えてくいつも」という一節では、smokeするときの二つの動作、つまり巻くことと燃やすことが、時間を描く際にきわめて有効にはたらいており、リリシストぶりを発揮しています。ちなみに、このように葉っぱを吸うことについて歌う曲が日本語ラップにもたくさんあります。例を挙げるとすれば、YOU THE ROCK★「FUKUROU(YAKANHIKOU)」、BUDDHA BRANDブッダの休日」、妄走族大麻合掌」、MEGA-G feat. DOGMA「HIGH BRABD」、The タイマンチーズ「Ganja Ganja Ganja」などでしょうか。

そして、「How Far My Freind」です。ファンに向けてSEEDAが歌ってくれている曲です。「おしゃれしてくれた人も親の財布漁ってきたニート」でも、「必要とするなら」SEEDAはいつでも目の前に現れてくれると言います。そんな彼は「俺は一人じゃ意味ない」のであって、ファンのみんなが必要なのだと歌います。そんなやさしさに満ち溢れる一曲の中で最も美しいのは「天才勝てる時の努力家 ガキか大人の間小大人/山椒はぴりり辛いない愛想 正直と本音が幸せの才能」という一節です。繊細なリズム感と、後期(?)SEEDAに特有の滑らかな発音とフロウが一緒になっているのです。ちなみに、MVでは、待ち合わせに遅刻したSEEDAは、待ち合わせた人物にお詫びとして自販機で買った飲み物を渡して車に乗り込み、自分を「遅刻の王様」と言う映像がおさめられていますが、SEEDAの魅力的な人物像が見える映像です。みなさんもSEEDAのファンになって「ぷぷぷぷぷ」と笑いましょう。

 

さて、これまで主要なSEEDAのアルバムを挙げていきました。他には、激レアであるファーストアルバム『DETNATOR』(私も聞いたことがありません。再発を切に願うのみです)、『Green』と合わせて聞きたいセカンドアルバム『ILLVIBES』、また詳しくは触れていませんが、評価の低い『瞬間in the moment』があり、また、SCARS名義でのアルバムもあります。また、2016年、CPFで発売した会員400人限定の『8 SEEDS』もあります(私は会員になっていなかったので聞けていませんが)。そこで、上記のアルバム以外での、客演仕事などを中心に聞くべき曲をリストアップしていきます。

 

「FACT」 SEEDA BES 仙人掌 (『CONCRETE GREEN3』または『CONCRETE GREEN/WHITE CHRISTMAS』)

この曲は、日本語ラップの歴史に残る一曲です。BACH LOGICがトラックを担当していますが、彼の全仕事の中でも屈指の出来のこの曲に、SEEDA、BES、仙人掌の三人もまた彼らのキャリアの中でも最も素晴らしいラップを乗せており、日本語ラップ史上最も優れた曲の一つです。間違いなくこの曲は大傑作です。全ての言葉がパンチラインで、また、本当に独創的で、奇跡的なフロウのラップを聞かせてくれます。残念なことに、この曲が収録されているCDも廃盤で、まことに日本語ラップにとって大きな損失であると思います。大きな声では言えませんが、ネット上を探してみるとよいかと思います。 

ちなみに、仙人掌のことを知っているでしょうか?彼はMONJUというグループのラッパーです。MONJUは、仙人掌のほかに2016年、KOKの予選でのT-PABLOWとのバトルが話題となったISSUGI、またMr. PUGからなるグループです。クールなラップがとてもオシャレで格好いいグループで、昔から東京のアンダーグラウンドで活躍していました。また、2016年にはGRADIS NICE & ISSUGI『DAY and NITE』、仙人掌『VOICE』が発売され、比較的高い評価を得ているようです。ちなみに、彼らが所属するDOWN NORTH CAMPには他に、S.L.A.C.K、KID FRESINO、BUDAMUNKなどが所属しており、東京のアンダーグラウンドHIPHOPを支えてきました。またちなみに、仙人掌の「VOICE」という曲では、「売れたくなくても曲メイクしまくりな ペンが走らなきゃフリースタイルで突破」と歌われていますが、これは後で紹介するSCARS「COME BACK」のSEEDAの有名なパンチラインのサンプリングです。

I-DeA「Walk wit me feat. SEEDA」(『SELF EXPRESSION』)

SCARSでの活躍をはじめ、日本で最も優れたトラックメイカーの一人であるI-DeAのアルバムに収録されたこの曲は、とてもリリカルなラブソングです。第一ヴァースではほぼ全編英語でのラップを披露し、第二ヴァースでは日本語でラップをしています。何といっても流れるようなフロウと、感動的な歌詞が素晴らしく、聞いた人は、必ず涙を流すことでしょう。また、フックの三連符のリズムが非常に特徴的で美しいです。ちなみに、三連符は、トラップに多いスタイルですが(二拍三連符)、日本の(というよりもすでに世界の、と言えるかもしれませんが)トラップの代表者と言えばKOHHがいます。KOHHは、大傑作アルバム『DIRT』があり、曲単位では「FUCK SWAG」「貧乏なんて気にしない」「DIRT BOYS feat. Dutch Montana, Loota」「飛行機」などの代表作があります。

SWANKY SWIPE「PLAYER'S DRIVE feat. SEEDA & A-THUG」(『BUNKS MARMARED』)

SCARSのBESが所属するSWANKY SWIPEと、SCARSの二人のコラボレイト。格好いいビートの上でSEEDAがとにかくぶちかましています。「ダチのダチじゃ誰お前マジで知らねーどっか行け」「何が言いてえんだかさっぱり分からねーラッパーがいる」といった超パンチラインを残しています。

また、この時のBESは恐ろしいほどキレキレです。また、おそらくこの時期のBESのフロウに影響を受けているのが、クラシック「小名浜」で有名な鬼でしょう。BESとは違い韻が固いラッパーですが、フロウの面ではこの時のBESからの影響は確かにあるかと思います。鬼と彼の仲間、鬼一家の『赤落』というアルバムが有名です。BESは鬼の「ontime07」、「糸」などの曲に客演しています。特に「糸」は名曲で有名な曲です。

 L-VOKAL「What's UP feat. SEEDA, Bay4K, STICKY」(『摩天楼』)

SEEDAの盟友と言ってもよいL-VOKAL。とにかくこの難しいビートに完璧に乗せて、かつまだ見たことない動きを編み出してしまったL-VOKALとSEEDAのラップの上手さが圧巻です。「ハスラーならてめえの力で何か掴んでから名乗りな」!SEEDAのこの歌いだしだけでも、聞く価値が十分にあります。しかし、『CONCRETE GREEN』と同様、超レア盤かつ超名盤ミックスシリーズ『摩天楼』の特典音源のため、手に入れることがとても難しいのです。i-tunesにこの作品は入っているようですが、特典のこの曲はそこでは聞けないです。これも中古か動画サイトを探してみるしかないでしょう。L-VOKALはスムースなラップが特徴的なラッパーで、歌詞も非常にシニカルで面白いです。ファーストアルバム『Laughin'』で名をあげ、KREVAの全面プロデュース作品『別人Lボーカル』(このアルバム名はKREVAのファーストソロアルバム『新人KREVA』を意識しています)も話題となりました。 

NORIKIYO「REASON IS...... feat. SEEDA」(『OUTLET BLUES』)

 SCARSとSD JUNKSTAという日本最高のヒップホップグループのスター二人の共演した曲です。「日本語ラップぶっちゃけ興味もないわ」と本音を暴露しつつ、音楽と自由の問題について、独特の論理的な装いの歌詞の運びと、詩的な連想、隠喩などが奇妙な仕方で混じり合った素晴らしい歌詞で語っています。「馴れ合いが体制なら俺は犯罪」。

ちなみに、NORIKIYO、ひいてはSD JUNKSTAのことは知っていますでしょうか。NORIKIYOはSD JUNKSTAのリーダーで、素晴らしい歌詞と裏のリズムが独特で魅力的な、日本を代表するラッパーの一人です。彼は昔悪いことをしていて追われ、逃げるためにビルから飛び降りて足に不自由を持つようになった、という話はとてもとても有名なです。彼の代表作は新たなリリシズムでシーンに衝撃を与えた『EXIT』や、『OUTLET BLUES』、『メランコリック現代』などがあります。曲単位では、「DO MY THING」「2FACE feat.BES」「支払は満額で (feat. BRON-K & OJIBAH)」「秘密」などはとても有名なクラシックです。

また、相模原で結成されたSD JUNKSTAは、とても魅力的なHIPHOPクルーです。アルバム『GO ACROSS THA GAMI RIVER』『OVERDOSE NIPPON』はどちらもとても素晴らしいアルバムで有名です。仲のよさと楽しいノリが日本で最も良質のクルー感を醸しだす「レイノヤツ~SAG DOWN PARTY~」「飲む」はSDの魅力を伝えてくれると思いますし、「人間交差点~風の街~」は風の街で生きる彼らの想いを歌っており、とても有名で彼らの代表曲でしょう。

SCARS「COME BACK」(『NEXT EPISODE』)

ファーストアルバムで歴史に名を残すことを約束されたSCARSが戻ってきたことを高らかに告げる一曲で、SEEDAは先に述べたように「売れたくないなら無料でやりな ペンが走らなきゃカラオケ行きな/SCARSを歌いな 乗り移る川崎東京が」という有名なパンチラインを残しています。他のメンバーのヴァースも全て格好いいです。また、先に仙人掌がこのパンチラインを引用したことを紹介しましたが、他にBESの「YUME TO KANE feat. SEEDA」という曲でも、「ペンが走らなきゃ俺はただのクズ」と引用されています。

「ONE WAY LOVE feat. BRON-K」(同上)

SEEDASD JUNKSTAが誇るBRON-Kが共演した、リリカルなラブソングです。歌ものラップで、素晴らしい一曲です。「記憶の断片が 消えてくONE WAY LOVE」。

ちなみに、BRON-Kというラッパーもまたラップの天才です。おそらくSD JUNKSTAの中ではNORIKIYOに次いで人気のあるラッパーではないでしょうか『奇妙頂礼相模富士』は特に名盤で、特に「ROMANTIC CITY」「何ひとつ失わず」といった曲はとても有名な傑作なので聞いていなければなりません。また、客演仕事も多く、名フックをたくさん歌っています。

MICROPHONE PAGER「MP5000FT feat. ANARCHY, SEEDA」(『王道楽土』)

格好いいビートの上で、全員が格好いいラップをかましています。SEEDAの、「ノールックでブザービーター ONE TAKE BLAH ONE SHOT KILLAR」という部分はとにかく格好いいパンチラインです。

ちなみにMICROPHONE PAGERとは、〈KING OG DIGGIN'〉ことMUROと、天才TWIGYのユニットで、1995年の『DON'T TURN OFF YOUR LIGHT』というアルバムはクラシックで、多くのラッパーに影響を与えました。特に「病む街」という曲が有名です。

「GOOD BOY, BAD BOY feat. SEEDA, KREVA」(『くレーベルコンピ【其の五】その後は吾郎の五曲』)

SEEDAKREVAが共演した曲として「TECHNIC」をすでに紹介していますが、この曲もまた名曲だと言われています。「GOOD BOY」的なKREVAと「BAD BOY」的なSEEDAの二人の共演はやはり間違いがないのです。ちなみにKREVAというのは元はCUE ZEROというラッパーとBY PHER THE DOPESTというユニットを組んでおり、90年代からアングラな場所でラッパーとしてのキャリアを積んでいました。当時を知る人から聞く限りでは、凄いラッパーが現れたぞ、と評判であったともいいます。その後LITTLE、MCUとともにKICK THE CAN CREWを結成し、人気アーティストとなり、紅白歌合戦にも出場しています。有名な曲には「マルシェ」「イツナロウバ」「アンバランス」などがありますが、アルバムとしては『GOOD MUSIC』が評価の高い作品です。またソロでのKREVAも素晴らしい楽曲を多数残しており、「音色」「アグレッシ部」「イッサイガッサイ」「THE SHOW」「挑め」「基準」「OH YEAH」などが有名です。またアルバムとしては『心臓』が最も完成度が高いです。

またこの曲が収録されているアルバムの名前にある、熊井吾郎はKREVAのバックDJを務め、日本有数のMPCプレイヤーで、日本一に輝いたこともあります。MPCプレイヤーと言えば、ニューヨークの路上でのプレイをおさめた動画で有名になったSTUTSの、2016年発売のアルバム『Pushin'』は非常に好評を博しました。特に、PUNPEEとの「夜を使い果たして」は、2016年最高の曲に推す声が多く聞かれます。

SCARS「GUTS EATER feat.DEN G.P.S」(『THE EP』)

「時にはメンバーの半分が不在」の状態にまで追い詰められたSCARSですが、SEEDAを中心にSCARSを機動させて作ったEPです。SEEDAはこれまでになかったような発声とフロウを聞かせてくれ、やはり天才であると再確認させてくれます。不在のメンバーへの想いを歌っており、「BESフロウ飛ばす A-THUGのアティチュード いかれたバース小節にチャンス」という歌詞は仲間への愛を感じさせてくれ、とても胸が熱くなります。また、この曲のSEEDAは数多くの引用をしています。自分の曲や、SCARSのメンバーのパンチラインからの引用です。ここでそれを全て解説することは野暮ですのでしませんが、「MONEY, PAIN 切れないチェーン 二つの狭間不条理なゲーム」という一節は、すでに紹介したBESのパンチライン「結局MONEY, PAIN 切れないチェーン 煙の向こう終わらないゲーム」からの引用です。仲間への想いがとても感動的に歌われていて、かつとても格好いいです。ちなみにA-THUGのことをまだ紹介していませんでしたが、彼はSCARSのリーダーです。時に笑ってしまうような、めちゃくちゃな歌詞を歌っており、それがとても魅力であるとも言えます。また、トラップミュージックの隆盛以降、下手くそだとの声も多くあった彼のラップは最近以前よりも活力を増していると言えそうです。A-THUGは日本有数のパンチラインメイカーであり、最も有名な「Bloodsとつるみ Crackを作り Blockを仕切り Glockを握り」(「Pain time」「塀の中」)というものがあります。アメリカの恐ろしいギャングとつるみ、コカインを作り、街の一角を仕切るハスラーのリーダーであり、拳銃を握るのだという意味で、非常に恐ろしい、強烈なパンチラインです。2016年に発表されたDOGGIESの「DOGIES GANG」(KNZZ & A-THUG)の「雹と雪が降る 野菜を食べる」という歌詞も、とても危ない半端ではないパンチラインだと言えます。

また、A-THUGと同タイプのパンチラインメイカーには、T.O.P.がいます。特に「4 My Thugz」という曲は、すべての歌詞がパンチラインだと言え、あまりの規格外さに抱腹絶倒するしかない、といった曲です。「ギャングみたいに通りに溜まって ラスタみたくKushでキマって/ワックな奴めがけてRhyme飛ばす Bitchが口ずさむバースぶちかます」「仲間とつるんで 仲間と溜まって 仲間と吸って 仲間と歌って 仲間のために暴れJailに入る」「Chickを回してDickを突っ込む」などの歌詞があります。

MAJOR MUSIC「HOPE」

この曲は、3.11に際して、MEJOR MUSIC、SEEDAKREVAが中心となって動いたチャリティソングです。 KREVA後藤正文ASIAN KUNG-FU GENERATION)、Mummy-DRHYMESTER)、宇多丸RHYMESTER)、三浦大知SEEDA、EMI MARIA、KOJOE、lecca、TENZAN、MAJOR MUSIC(Bastiany&HirOshima)、Che'Nelle(US)、Karibel(US)が参加しています。日本と世界、ヒップホップと多ジャンル、東京と地方などが垣根を超えて力を合わせることの重要性を体現しているメンツではないでしょうか。

ちなみに、震災に際して多くのラッパーたちが声を上げました。GAGLE「うぶごえ」、楽団ひとり「NORTH EAST COMPLEX part 3.11」、S.L.A.C.K、TAMU、PUNPEE、仙人掌「But this is way」、般若「何も出来ねえけど」などの曲があります。

 

SEEDA Junkman kZm「BUSSIN」

ここ最近、シーンの中心に躍り出たYENTOWNの中心人物Junkmanと、kZm、そしてSEEDAが共演したこの一曲を聞いた人たちはとても驚きました。なぜなら、久しぶりにSEEDAがストリート感を取り戻し、キレキレのラップを披露しているからです。まず一言目でぶちのめされてしまいます。「I'm motherfuckin' SEEDA」ですし、続けて「排水溝のなーーか」です。本当に度肝を抜かされてしまいます。説明する必要があるでしょうか?フリースタイルダンジョンのライブでも「俺はストリートの代弁者」と、素晴らしいセリフを吐いてからこの曲を歌い始めましたよね。

また、Junkmanのヴァースも素晴らしいです。「いかれててもイケてりゃいいってこったな 嘘はめくられるストリートこっから」というのはパンチラインです。

YENTOWNは今とても人気が出はじめていて、危ないにおいを感じさせる、とても格好いいグループです。主要メンバーのMONY、PETZ、JNKMN(Junkman)で出したEP『上』『下』は最近のヒット作だと言えます。

 

他にSEEDAに関連して、聞いておくべきだと思われるアルバムをリストアップしておきます。

『SCARS PRESENTS: MIXED BY DJ TY-KOH』 CCG収録の曲などが収録されており、SCARS入門に手っ取り早いミックスCDと思われます。ミックスを手掛けたDJ TY-KOHは川崎出身で、SEEDAのライブのバックDJを何度も務めています。彼の主宰するFLY BOY RECORDも今活発に動いており、「バイトしない」は名曲だと言う人が少なからずいます。

SEEDA・OHLD・BRON-K『DESERT RIVER』

すでに紹介している二人に加え、素晴らしいプロデューサーであるOHLDが組んだのがこの「DESERT RIVER」プロジェクトです。非常に格好いい音に、二人のラッパーがラップを乗せています。このアルバムに収録されている以外にも、DESERT RIVERシリーズの曲はあります。また、SEEDAはこれと同時期にS.L.A.C.K、Zeebraとシングル『WHITE OUT』も発表しています。

SEEDA, DJ ISSO, DJ KENN『CONCRETE GREEN   THE CHICAGO ALLIANCE』

SEEDA、DJ ISSOに加え、アメリカ、シカゴのハードな環境で生き抜くDJ KENNを迎えた一枚。DJ KENNは、世界的ラップスターであるチーフ・キーフとも親交が深い人物です。サウスと川崎が手を組んだ一枚となりました。また、PUNPEE「憧れのCONCRETE GREEN」を聞くと、CCGがいかに日本語ラップ界で権威があり、大きな貢献をしてきたかが分かります。P様でさえ、ド緊張してしまうのがCCGなのです。ちなみに、PUNPEEは弟S.L.A.C.K、同級生GAPPAERとユニットPSGを結成し、アルバム『DAVID』で絶大な評価を得ました。パンピーどころでなく天才との評価は揺るぎないものの、ソロでの仕事のほとんどがプロデュース、ミックス、客演などでまとまった音源はいまだ発売されておらず、多くの人がソロアルバムを待ち望んでいます。

I-DEA『SELF EXPRESSION』 SCARSのトラックメイカーI-DeAのアルバム。SEEDAは二曲参加。また、SWANKY SWIPE「評決のとき」のオリジナル「ONE DAY」も収録。ちなみにI-DeAのレコーディングは非常にストイックで、「I-DeA塾」と呼ばれています。

STICKY『Where's My Money』 SCARSのSTICKYのソロ。SEEDAも一曲客演参加。

bay4k『I AM...』 SCARS、練マザファッカーのbay4kのソロ。SEEDAも一曲参加。ちなみにbay4kは、ダウンタウンが司会を務めていたかつての大人気バラエティ番組『リンカーン』の企画「ウルリン滞在記」に練マザファッカーのメンバーとして出演しました。リーダーD.Oの「いいぜメーン」が流行語となりましたが、二番手的な立ち位置のbay4kをはじめてとしてメンバーたちが口にする「ディスってんの?」も流行し、現在では一般的な言葉として定着しています。

 BES『UNTITLED』 捕まっていたBESだが、敏腕318の指揮の元、仲間たちが力を合わせて完成させたBESの最新アルバム。SEEDAは二曲参加。

SAC『FEEl OR BEEF』 SCARSのトラックメイカーSACのアルバム。SEEDAは二曲参加。SCARS、SDの面々の他に神戸薔薇尻、鬼なども参加しています。SCARS『THE ALBUM』の「In Dro」のリミックスも収録。

DJ MUNARI『THE ALBUM』 HIPHOPの本場ニューヨークに渡り「下剋上」を試みたDJ MUNARI(A-THUGによれば「無也 無から有を生むなり」!)だからこそ実現した名盤であり、SEEDAは二曲参加。アメリカ、ギャングスタラップの大御所KOOL G RAPと、日本の般若が夢の共演を果たした「DEAD OR ALIVE」も収録。

『BOOTSTREET PRESENTS : Rapsta On Bootstreet』 JASHWONとD.OのBOOT STREETが手を組んで作られたコンピ。SEEDAは一曲参加。BOOT STREETはかつて、渋谷に店を構えていたショップで、とても有名であった。多くのMVにも映っている。SEEDAの「SHIBUYA SHIBUYA feat. bay4k」のMVに映っているように、かつて渋谷のHIPHOPの象徴の一つでありました。

マイクアキラ『THEラップアイドル』 SEEDAは一曲客演参加。マイクアキラは四街道ネイチャーのメンバーで、本当にいかれています(もちろん褒め言葉です)。四街道ネイチャーは、伝説的な二つのイベント、さんピンCAMPと大LB祭りのどちらにも参加した唯一のアーティストです。アルバム『V.I.C. TOMORROW』があります。

Squash Squad『Objet』 SEEDAは数えきれないほどのアーティストをフックアップしてきましたが、その一組にSquash Squadがいます。独自の世界観を持っているアーティストです。SEEDAも一曲参加。ちなみにメンバーのVITO FACCASIOは2016年、フリーミックステープ『Rehabilitation』を発表しました。

VIKN『CAPITAL』 ストリートヒップホップの重要な担い手であるVIKNのアルバム。SEEDAも一曲参加。また、「STARTING 5 feat. BES, GUINESS, A-THUG & NIPPS」は多くのリミックスを生みヒットしました。

SMITH-CN『yumenokakera』 引退宣言後のSEEDAがA&Rを務めたSMITH-CNのファーストソロアルバム。SMIITH-CNはSNIPEとEESENCIALを結成していたラッパーで、後にR-RATEDに所属します。特典CD-Rとして限定配布された「2010 feat. SEEDA」は今となっては手に入れることが難しいですが名曲です。

OKI from GEEK『ABOUT』 「Sai Bai Man」やCCGへの参加、TERIYAKI BEEFなどで知られるOKIのファーストソロ。SEEDAは一曲参加。「四畳半劇場 feat. NORIKIYO」などの名曲も収録。